【海洋ジャーナリスト瀬戸内千代の「もっと知りたい!MSC」】 01

写真提供:日本サステナブル・ラベル協会

2019年10月28日、マクドナルドのフィレオフィッシュのリニューアルが発表されました。 日本マクドナルドが「MSC CoC認証」を取得し、パッケージにMSC「海のエコラベル」を表示するというニュースは、MSCにとって大きなトピックです。

そんなマクドナルドの商品に使われている様々な国際認証を、学生の皆さんに知ってもらい、議論してもらうという場が先日開催されましたので、レポートをお送りします。

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写真提供:日本サステナブル・ラベル協会

11月17日の日曜日、都内某所に高校生や大学生が次々と集まってきました。オブザーバーとして参加する大人の姿もちらほら見えます。

まもなく、一般社団法人 日本サステナブル・ラベル協会主催の、国際認証フォーラム「持続可能な社会・未来を考える ~持続可能な調達とは?~」が始まりました。 この催しの主役は、未来を担う若者たちです。

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写真提供:日本サステナブル・ラベル協会


そもそも「国際認証」って?

主催者の日本サステナブル・ラベル協会が「サステナブル・ラベル」と呼んでいる「国際認証」とは何か。代表理事の山口真奈美さんが解説しました。

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写真提供:日本サステナブル・ラベル協会

  • 有機JASのような公の機関が定める認証制度とは別に、環境団体や民間企業などから成る非営利団体が作った認証制度
  • 市場原理に基づくアプローチ(消費者が国際認証ラベルの付いた製品を積極的に購入することがインセンティブとなり、認証制度の取り組みが推進される)
  • 非営利団体が主体となり、さまざまなステークホルダーが一緒に議論して「基準」を作る。 その基準を用いて第三者機関が審査する
  • 製品に国際認証ラベルを付けて販売するには、生産から販売までの間に関わる全ての事業者にトレーサビリティに関する認証の取得が求められる。消費者の手に渡るまでに、事業者の認証の鎖(チェーン)が一つでも切れたらラベルを付けることができない

以上が、国際認証(サステナブル・ラベル)の共通項です。

山口さんは日本サステナブル・ラベル協会について、こう説明しました。「日々の衣食住で何気なく手にしたものが環境を破壊しているかもしれない。この思いと行動が矛盾する社会の中で、国際認証ラベルは、エシカル消費の一つの目印として機能します。しかし、各企業の認証のチェーンを全てつなげるのは簡単ではありません。企業もラベルの認知度が上がらないうちは認証制度に取り組みづらいので、当協会が複数の国際認証をまとめて普及啓発活動をしています」

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日本サステナブル・ラベル協会の資料には、日本でも扱いのある国際認証の数々が。見たことがあるラベルは何種類ありますか?

今回のフォーラムには、MSCを含め、4つの国際認証の関係者が登壇しました。 06

登壇者の皆さん。右端から環境省の藤田さん、星槎大学の西原先生、主催の日本サステナブル・ラベル協会の山口さん、共催の日本マクドナルドの岩井さん、RSPOの水登さん、MSCの仲山、FSC®の河野さん。

国際認証の各論に先立ち、環境省 生物多様性主流化室 室長補佐の藤田道男さんが、生物多様性を「生き物のにぎわい」と「水資源」から成る「お鍋(料理)」にたとえて、それを守るための世界目標について語りました。

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写真提供:日本サステナブル・ラベル協会

藤田さんは、2010年開催の「生物多様性条約第10回締約国会議」(COP10)で合意された愛知目標に絡めて、こう語りました。「愛知目標は2020年が期限です。IPBES※(イプベス)の『地球規模評価報告書』によると、陸・海の開発や、資源のとり過ぎ、大量生産・大量消費などが原因で、『自然がもたらすもの』(いわゆる生態系サービス)は世界的に劣化しています。でも、社会変革があれば、世界目標の達成の可能性はあって、認証制度はそのためのツールの一つになる、とIPBESは指摘しているのです」

※世界中の研究成果を基に政策提言を行う政府間組織であり、「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の生物版」と言われる

来秋に中国で開催される、生物多様性のCOP15では、愛知目標に続く「ポスト2020目標」を決める予定。そこに向けた日本政府の議論においても、認証制度が注目されているそうです。

小さなラベルの一つ一つに、「社会変革」という大きな期待がかかっているわけですね。


国際認証品を選ぶ意義~コンゴのFSC®認証木材を例に

どの国際認証にも、それぞれに解決したい環境・社会・経済的な課題があります。


【レインフォレスト・アライアンス】

サステナブルな農林業による製品にカエルのマークを付ける「レインフォレスト・アライアンス認証」。

マクドナルドのホットコーヒーのカップにも、認証マークがついています。

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写真提供:日本サステナブル・ラベル協会

レインフォレスト・アライアンスの一倉千恵子さんはビデオメッセージで登場し、こう述べました。「2018年にUTZ(ウッツ)認証※と合併し、2020年6月に新しい認証基準を発表予定です。認証農家は、熱帯を中心に63カ国、200万件以上。日本の緑茶の生産者も含まれます」

※UTZ認証:持続可能な農業のためのプログラムおよびラベルマーク


【RSPO認証】

チョコやクッキー、マーガリンなどの身近な食品や、石鹸などに使われるパーム油を持続可能なものに、というのが「RSPO認証」。

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写真提供:日本サステナブル・ラベル協会

夏に設置されたばかりという日本窓口から水登(みずと)朱美さんが登壇し、「パーム油は、植物油の中でも群を抜く量が世界で使われています。産地は貧しい熱帯の国々で、森林破壊や生物多様性の損失が懸念されるため認証制度ができました」と紹介しました。

RSPO認証のパーム油100%を達成している企業は欧州に多いですが、日本では、日本マクドナルドが店舗で使用しているフライオイルについてRSPO認証100%を達成したことが初めてだそうです。


【FSC®認証】

木のマークの国際認証「FSC®認証」は、紙や木材などの木から作られた製品が対象です。 10

写真提供:日本サステナブル・ラベル協会

FSC®ジャパンの河野絵美佳さんは、「3.5秒でサッカー場1面分の世界の天然林が消えています」と図で示しました。

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写真提供:日本サステナブル・ラベル協会

上の1行を早口で読んでも、3.5秒以上かかります。その間にも1面、また1面と、サッカー場サイズの貴重な天然林が地上からなくなっているのです。これは2010-2015年のデータなので、昨今の大規模な森林火災で、さらにスピードアップしているかもしれません。

「野生生物が死に、土地を奪われた住民は貧困から売春などをして生活しているという現実があります。二酸化炭素の吸収源が減るため、気候変動にも悪影響があります」と河野さんは述べました。

続いて、30年もアフリカのコンゴ盆地の熱帯林地域で活動し、今年11月に星槎大学共生科学部特任教授に着任した西原智昭先生が登壇しました。

臨場感あふれる写真満載のお話から、事態のさらなる深刻さが伝わってきました。国際認証が必要とされる背景が非常によくわかるお話です。

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写真提供:日本サステナブル・ラベル協会

西原先生はこう述べました。「コンゴ盆地の森に資源開発を目的とする多国籍企業が殺到し、何万年も森林管理を永続的にやってきた先住民族が土地を追われている。SDGs※の理念に反しています」

※SDGs:持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)。2015年9月にニューヨークの国連本部で開催された「国連持続可能な開発サミット」で設定された、人間、地球及び繁栄のための行動計画。

会場の高校生が「SDGsの『誰一人取り残さない』のという理念の実現は難しいと思うのですが」と発言すると、西原先生は「皆さんの持っているスマホに使われている希少金属(レアメタル)は、アフリカのコンゴ盆地の森林の地下から採掘されています。それが先住民を追い出し結果的に差別を招いている。そういう具体的なところから考えてみたらいかがでしょう」と語りました。

西原先生によると、木材の輸送道路ができると森の奥まで自動車が入れるようになって密猟が拡大します。人間による植林は効果がなく、マルミミゾウのふんから発芽する木が森を作るので、象牙のためにゾウが殺され続けたら森も消えてしまうそうです。

西原先生は「先住民族への配慮をちゃんとやっているのはFSC®認証しかありません。先住民族専用の学校を作り、文化・伝統・知恵の継承をサポートしています。コンゴ共和国の事例では、FSC®認証を取得した伐採企業がコンゴのレンジャーの雇用を守り密猟を取り締まった結果、FSC®認証の伐採区ではゴリラやゾウやヒョウが見られます。他の認証では、計画伐採をしていても動物不在となり生態系が崩壊しています。野生生物と森林をセットで残さなければ意味がありません」と続けました。

貧しいために自然資源を切り売りするしかないコンゴ盆地の国々と、その地域の熱帯材のトップクラスの消費国であり続ける日本。その両方を知る先生の前には、休憩時間に質問者の長い列ができました。


MSC認証の背景?水産資源が直面するリスクとは?


【MSC認証】

MSCの仲山は海の課題を語りました。世界的に水産物の消費量が増える中、天然水産物の漁獲量は80年代に頭打ちとなり、いまや資源状態が良好な水産資源は全体のたったの1割です。

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「日本で消費されている水産物の約半分が輸入品です。日本の輸入天然水産物の約3割が違法・無報告の漁業由来というデータもあります。国際的な資源管理の枠組みを逃れて操業する漁船や、破壊的な漁業、強制労働や児童労働の関与なども水産物の背景に潜むリスクです」

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このように、水産資源の問題はもちろん、漁業では様々な問題が起こりえます。しかし、MSC認証の持続可能な漁業で獲られた水産物であることを示す、MSCの「海のエコラベル」がついた製品を選ぶことで、そのような問題に加担するリスクを避けることができるのです。

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写真提供:日本サステナブル・ラベル協会


日本マクドナルド、全国2900店舗でCoC認証を取得

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日本マクドナルドからは、昨年の東京サステナブルシーフード・シンポジウムの記事にも登場したCSR部の岩井正人さんが、「なぜ、いま国際認証に注目しているのか。自社の取り組みについて」と題して語りました。

同社は、国内2,900店舗で2019年8月にMSCのCoC認証を取得し、アラスカ・ベーリング海で漁獲されたMSC認証のスケトウダラを使った「フィレオフィッシュ」のパッケージに、2019年11月から順次、MSC「海のエコラベル」を表示しています。

さらに、お客様用紙製容器包装類にはFSC®ロゴ(2020年までに100%が目標)、ホットコーヒーのカップにはレインフォレスト・アライアンス認証マーク、フライオイルのパーム油はRSPO認証(RSPOの認証油マークは厨房のオイル缶にあり)と、積極的に国際認証品を導入しています。

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RSPO認証マークのついたフライオイルの一斗缶 写真提供:日本サステナブル・ラベル協会

「人口増の世界で食料を枯渇から守りながら販売しない限り、マクドナルドのビジネスも成り立たないのです。これからも持続可能な農業や漁業を応援していきます」と岩井さんは語りました。

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認証ラベルがそろい踏みのマクドナルドのセット。このトレーマット(トレーに敷いてある紙)は各認証の紹介が載っている期間限定バージョンです(現在は終了)。緑色のトレーはハッピーセットのおもちゃを店頭の回収ボックスで集めてリサイクルしたもの。おもちゃの選択肢に絵本を加えるなど、プラスチックからの脱却も図っているそうです。


次世代から飛び出したアイデア

社会課題の解決に有効な「国際認証」というツールを、日本でどう活用するのか? 認知度はどうやったら上がるのか?

このフォーラムの最後には、参加していた高校生や大学生が、休憩時間に提供されたマクドナルド商品を試食しながら、「持続可能な未来に向けて協働するためのアイディア」を40分のグループ・ディスカッションで語り合いました。オブザーバーの大人も輪に加わります。

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写真提供:日本サステナブル・ラベル協会

6グループ3分間ずつの発表では、みずみずしいアイデアが次々と飛び出しました。

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「イベントや誕生日などの機会に、認証品やSDGsに貢献するものを買うと、広めるためにも良いのではないかと思います。この班では皆、今年のクリスマスプレゼントに、ラベル付きの商品を選ぶことにしました」


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「親たちには認証品を使ったレシピを公開、子どもには認証品で給食を作るなど、2世代にアプローチしてSDGsや国際認証を世の中のトレンドにする。ファーストフード店でエコバッグやタンブラー持参者への割引制度があると良いと思います」


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写真提供:日本サステナブル・ラベル協会

「環境に配慮しない会社がやっていけないような経済圏を作りたい。認証ラベルのデザインを若者向けにして一種のブランドにできれば、より選ばれるのでは。選んだ後でネタバレ的に環境に良いと知らされるのも気持ちいい。ラベルを集めるポケモン的ゲームもいいと思います」


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写真提供:日本サステナブル・ラベル協会

「雰囲気づくりとアクションを推進する。学食や売店で認証品だけを使う。学園祭や授業、フィールドワークも活用する。買ったお金がどのように使われているのかを可視化する。また、バイト先企業の取り組みを発信するなど、学生同士で情報共有できたらいいと思います」
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写真提供:日本サステナブル・ラベル協会

「まず知ることが大事。身近な人が伝えることで当事者意識や親近感を持ってもらう。楽しいことを盛り込みつつ、自分たちが納得できる形で、深い所まで知って行動を起こしてもらう。印象的な写真を廊下に貼るなど、強制的でなくビジュアルで伝えるのがいいと思います」


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写真提供:日本サステナブル・ラベル協会

「日常生活で危機感がない。自販機やSNSなどで接点を増やしたり、職場の研修に取り入れたりしては。子どもから大人に伝える活動や、お年寄りの経験と学びを生かした活動も良いと思う。国には、お金が流れる仕組みを作ってほしい。いろいろな認証ラベルが一緒になって、環境マイレージを集めると特典があるような仕組みを作ったら面白いと思う」


山口さんはこの発表を受けて、「実現可能な素晴らしいアイデアばかり」とまとめました。

オブザーバーとして参加された消費者庁の米山眞梨子さんも「上からでなく、一人ひとりが考えていただけるような仕掛けを作りたい。エシカル消費の普及啓発のヒントをたくさんいただきました」と満面の笑顔でした。

「今回をきっかけに継続的なグループを作って、アイデアを実現するステップを踏んでいきたい」と述べた山口さんが、最後に参加者の3時間の協力に謝意を表し、「この場に集まれる私たちは恵まれている」と語った言葉が、西原先生の印象的な発表と共に、心に残りました。

日本サステナブル・ラベル協会やマクドナルド、そして国際認証制度の今後の活動を、皆さんもぜひチェックしてくださいね。

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文:瀬戸内千代(海洋ジャーナリスト)



               

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