今年の秋も、日本のみならず世界から識者が集まり、「サステナブル・シーフード」について話し合われる「東京サステナブルシーフード・シンポジウム」(略してTSSS)が、日経ESGとシーフードレガシーの主催で開催されました。

5回目を迎えた同シンポジウムの枕詞は、ついに「アジア最大級」に。11月7-8日の2日間で、100人以上が登壇し、1000人以上が参加して、会場は大にぎわいでした。水産資源に関心を持つ人々のネットワークは確実に広がっています。

会場にはMSCブースも。多くの人が訪れていました。
今回のブログでは、約9時間にわたり、計30人が登壇したシンポジウム1日目の様子を、MSCの話題を中心にお届けします。
オリパラ後の日本に何が残せるか?
今年のTSSSのキャッチコピーは、「いよいよ近づく2020年、持続可能な魚から考えるSDGs・ESG経営」でした。「いよいよ」と言うのは、同シンポが東京五輪を意識して始まった催しであり、まさに今回が、オリパラ開催前最後のTSSSだからです。
1日目は、MSC本部からチーフ・プログラム・オフィサーのニコラ・ギシューが来日し、「東京五輪はオリンピックレガシーを継げるのか」と銘打った、シンポジウムのテーマど真ん中のセッションに登壇しました。
ニコラは、農業と漁業が盛んなフランスのブルターニュ地方の出身。漁業が環境や社会に与える影響に懸念を抱き、水産加工会社の輸出マネージャー等を経て2002年からMSCのスタッフになりました。

セッションのファシリテーターは、シーフードレガシー代表取締役社長、花岡和佳男さん。
ニコラは、五輪の調達コードにMSCが入った2012年のロンドン大会の経験から話し始めました。

「英国市場では大会終了後に、水産物の持続可能性について、さらなるコミットメントと成長がみられました。国内でMSCの認知度が上がり、人気のタラやサバを中心にMSC認証品が4万トンから15万トンに急拡大したのです」

大会が終わっても興味が失われず、むしろ高まったとのこと。グラフを見ると、五輪を境にMSCが主流化したことが明らかでした。
そして、「今の日本でも、ロンドン大会の時と同じような傾向が見られます」と言って示したのが、こちら。

これ、日本のグラフです。2016年以降、MSC認証品の量が5倍に伸びています!

「年限を切ってMSC認証品の導入割合をコミットメント(約束)する日本企業も、次々と現れました」とニコラ。
「そして日本では、この2年で、ますます多くの人たちが、『より持続可能な魚に切り替える準備ができている』と言っています。消費者には志があるのです」

「では、どうやって持続可能な水産物を増やしていくのか。いくつかの国際的なイニシアチブが、世界の水産業に大きな影響を与えています」

1つ目は、おなじみのSDGs(持続可能な開発目標)。2つ目は、世界最大規模の水産企業たちが集まり持続可能な水産業に向けた変革をけん引する「SeaBOS(シーボス)」で、マルハニチロ株式会社の伊藤社長が議長を務めています。そして、3つ目は、MSCの最高責任者ルパート・ハウズを含む国際的な海洋リーダー50人による「フレンズ・オブ・オーシャン・アクション」で、2020年の国連海洋会議に向けて活動しています。

「持続可能性への取り組みは一過性のものではありません。きっと根付いていくでしょう。私は日本企業の、大会後に向けたコミットメントのレベルに関心があります。野心的な内容を期待します。それは世界の水産業全体に影響を与えるからです」
確かに、日本の水産企業は世界の海に船を出し、グローバルな水産サプライチェーンの頂点に位置しています。ニコラの言葉は、誇張でも何でもなく事実だと思いました。
一緒に登壇されたのは、パナソニック株式会社ブランドコミュニケーション本部CSR・社会文化部 部長の福田里香さんと、ロイドレジスタージャパン株式会社取締役の冨田秀実さんです。

福田さんは、日本初の「社員食堂へのサステナブル・シーフードの継続導入」について語りました。パナソニックのこの取り組みは、この日の夜に開催された「第1回ジャパン・サステナブルシーフード・アワード」表彰式で、イニシアチブ部門のチャンピオンに輝きました。
「MSC・ASC認証品の出口を広げる必要を感じて」他社にも働き掛けたパナソニックのおかげで、いまや複数の給食会社がCoC認証を取得し、国内で7つの企業が、社員食堂にMSC・ASC認証品を導入しています。
福田さんは企業同士のネットワークを呼び掛け、最後に「ご興味のある方は、ご連絡ください」と、QRコードやメールアドレスをスライドに映し出しました。パナソニック、サステナブル・シーフードの普及に本気モードです!

東京オリンピック・パラリンピックの「持続可能な調達コード」の策定に携わった冨田さんは、「大会自体は決して持続可能ではない。1カ月だけの大会のために大きなマイナスのインパクトを及ぼしてしまう」と率直に述べました。
そして、「だからこそ、取り返すだけのレガシーを生まなければ」と言って、建物などのハード・レガシーでなく仕組みなどの「ソフト・レガシー」の好例として、ロンドン大会後に病院や学校にまで普及したMSC認証を挙げ、横展開と継続性の大切さを強調しました。
冨田さんの言葉通り、SDGsの17の目標は全てリンクしていて、事業が海(目標14「海の豊かさを守ろう」)に関係ない企業も、きっとどこかで海につながっています。
過剰漁獲や違法労働を知る→認証を求める
ファシリテーターを務める花岡さんは「消費者の意識向上が必要」という指摘がTSSSの変わらないテーマになりつつあることに懸念を示し、「なぜ欧米では消費者の意識が向上したのでしょう?」と、ニコラに問いました。
二コラは次のように答えました。「課題を知らなければ、解決策を求めることはできません。フランスでは、クロマグロの問題が報道され、それが引き金となって、消費者の意識が高まりました」
今は回復に向かっている大西洋のクロマグロも、一時期は資源減少が深刻で、違法操業による過剰漁獲や、洋上での奴隷的労働などが、多くの海外メディアで報道されました。
世界とつながりやすいネット時代の私たちも、そういった問題を知る機会は増えています。近々、消費行動を実際に変える人の数が、目に見えて多くなるのかもしれません。これを読んでくださった方が、内容を誰かに伝えるだけでも、変化は早まると思います。

「持続可能な魚を選ぶことの重要性を、もっと広める必要があります。多くの人と協力し、解決策を共有することが、サステナブル・シーフード拡大の鍵になるでしょう」とニコラ。
MSC「海のエコラベル」は企業のサステナビリティの指標
上記のセッションの前に、すでに20人以上が登壇していたTSSSの1日目。ずっと聞いていたら、たびたびMSCのことが話題にのぼっていました。
MSC認証の導入から14年が経つイオンの山本泰幸さんは、導入の理由を、効果と比較して「最もコストが安い」手段だったから、と語りました。自社で違法性の有無やトレーサビリティを確認して証明すると、国際認証を取得するよりコストがかかる、ということです。
同じく早期からMSC認証を導入していた日本生活協同組合連合会の松本哲さんの発表でも、自分たちで独自の環境マークを付けるよりも、「外部のスタンダードを取り入れようと2010年に決めた」というお話がありました。
これらの企業は、FSCやMSC、ASCなど国際的に信頼度の高い第三者による認証を、商品の安全性を確保する便利なツールとして活用しているのです。
東京五輪を前に、改革を掲げた水産庁も、イニシアチブに参画する日本企業も、食に携わるシェフや店舗の皆さんも、確かな動きを見せ始めています。

ニコラは、「日本の水産市場は魚種が多様で複雑。でも、だからこそインパクトがある」「市場規模は、ロンドン大会を開催した英国の水産市場の6倍。潜在的な可能性は非常に大きい」と、繰り返し期待を述べました。やりようによってはサステナブル・シーフードの発信地にもなり得る日本に対して、熱い視線が注がれているのを感じました。
次回は、おおいに盛り上がった2日目について、MSC日本事務所から、プログラム・ディレクターの石井が登壇したセッションを中心に、ご報告します!
文:瀬戸内千代(海洋ジャーナリスト)















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