カツオセミナーは、研究機関、大学、企業のカツオ関係者が、カツオの資源問題と食文化について話し合う場です。最近は、日本近海のカツオの来遊減少と資源管理が大きな話題となっています。
まず、川島秀一会長があいさつに立ち、学会設立の経緯やカツオ漁業を取り巻く問題にふれ、「現場の苦労に報いるためにも、日本カツオ学会では、カツオのことを真剣に考えていきたい」と述べました。
一人目の基調講演は、国立研究開発法人 水産研究・教育機構 国際水産資源研究所 業務推進部長の小倉未基さん。資源管理の専門家として、「カツオ資源状況と最新の研究トピックス」について語りました。
カツオについての認識のズレ
以下、小倉さんのお話を要約してお伝えします。
カツオは太平洋を広く回遊する「高度回遊性魚類」です。マグロ類なので、「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)」という国際組織の管理下にあります。
カツオは成熟が早く、周年で産卵し生産性が高い魚。そのため、公的な資源評価によると、現在の資源量は、獲り過ぎ(減り過ぎ)でもなく、増え過ぎることもなく、安定しています。
この評価を根拠に、熱帯域の島しょ国や、そのEEZ(排他的経済水域)に入漁料を払って漁船を入れる国々(日本を含む)は、カツオを獲っています。
ところが、日本の沿岸では近年、カツオの漁獲量が低迷しており、熱帯域での漁獲が、日本周辺に上がってくるカツオに負の影響を与えていると懸念されています。
日本近海はカツオの分布域の辺縁部であるため、「熱帯域で大きな漁獲があることで分布域が縮小し、来遊するカツオの数が減っている」という見解があるのです。
一方、島しょ国の中には、「熱帯域のカツオの群れと、日本近海のカツオの群れには、ほとんど往来がないから関係ない」という主張があり、日本の不漁を理由に、「持続可能な状態」と科学者からお墨付きをもらっている漁業を自ら制限する動きは見られません。
カツオ資源が安定している熱帯域と、2005年からカツオの漁獲量が減り続けている日本との間で、認識がまったく異なっているのです。
世界では、ほとんどのカツオがツナ缶の原料になりますが、日本では、「鰹節と出汁が6割、生食3割、缶詰1割」と、用途もちょっと特殊。
そのためカツオセミナーでは、日本でとりわけ重要な位置付けにあるカツオという魚種を守るためには、科学的なデータをそろえて、他国の理解と協力を得ることが必要だという話が、繰り返し出ていました。
カツオの回遊ルートは未解明
次に登壇したのは、味の素や水産庁、東京海洋大学と共に、カツオの回遊経路を明らかにするための調査をしているフュージョン有限会社代表取締役の笹倉豊喜さん。
「太平洋沿岸カツオ標識放流共同調査(台湾から与那国島を経て日本海、太平洋まで)」と題して基調講演されました。
笹倉さんたちは、追跡調査でカツオの生態を知ろうと、釣ったカツオに「超音波ピンガータグ」や「アーカイバルタグ」といった標識を付けて、再放流しています。
ピンガ―は、魚の居場所をリアルタイムで追うことができる小指サイズの超音波発信機。ツールは着実に進化しつつあります。しかし、まだカツオの回遊ルートの全容解明には至っていないとのこと。若い個体の追跡が課題なのだそうです。
「日本遺産」登録を目指す高知のカツオ文化
特別講演では、日本カツオ学会副会長の受田浩之さんが、「高知カツオ県民会議の発足と活動について」と題して語りました。
高知県民は、1世帯当たりのカツオ購入量が全国1位。全国平均の5倍も買っているというから、その「カツオ好き」は相当です。
ところが、沿岸の引き縄漁業で獲れるカツオは、初ガツオのシーズンを中心に壊滅的に減ってしまい、生食の「たたき」を中心とした高知のカツオ文化に異変が起きています。
そこで、カツオの現状を広めてカツオを守る運動を「ここ高知から立ち上げるべきではないか」という思いから、受田さんたちは「高知かつお県民会議」を発足しました。
同会議は今、カツオにまつわる高知独特の文化や風習を「日本遺産」に登録しようと、文化庁への認定申請に向けて動き始めています。
MSCの鈴木さんが登壇
基調講演の3つ目は、「持続可能なカツオ漁業とMSC認証」と題して、MSC日本事務所 漁業担当マネージャーの鈴木允(すずき・まこと)さんが登壇しました。
鈴木さんは、高知カツオ県民会議の第2回シンポジウム(2017年11月開催)に参加して、不漁に悩む近海カツオ漁業者や関係者たちを目の当たりにしました。それが、今回の登壇のきっかけになったそうです。
「皆さんの思いを聞いて、MSC認証が課題解決の一助になるのではないかと考えました。日本近海のカツオが減っていることは一般消費者に知られていません。でも、カツオは和食の根幹にある魚です。多くの人がもっと真剣にカツオ問題を考えて大きなムーブメントにすることが非常に大事だと思っています」(鈴木さん)
日本近海のカツオ漁業の水揚げの推移は、下の赤い折れ線グラフの通り、右肩下がりです。さらに国際交渉も難航中で、関係者は苦境に立たされています。そこで鈴木さんは、高知県をはじめ、全国の近海かつお一本釣り漁業にMSC認証取得を目指すよう働きかけました。
高知の関係者は、すぐに行動を起こしました。高知新聞によると、ちょうどこのセミナーの2週間ほど前、全国の近海一本釣り漁船(20トン以上の46隻)が、MSCの予備審査を2018年度中に受けることを決めたといいます。
鈴木さんは講演のなかでMSC認証制度の仕組みや、国内外での広がりについて紹介しました。世界では358の漁業がMSC認証を取得しており、審査中の73漁業を合わせれば、その規模は、全世界の水揚げの14%を占めています。(データはセミナー当日のもの)
魚種ごとに見れば70%を超すものもありますが、カツオ・マグロ類は全水揚げの20%ぐらいがMSC認証取得済みまたは審査中の漁業で獲れたものだそうです。
このようなMSC認証の広がりを踏まえ、鈴木さんは、MSC認証の取得によって、日本のカツオ漁業に、
1. 国際的な発言力強化
2. 日本の消費者にカツオ問題を考えてもらうきっかけ作り
3. 太平洋におけるカツオ資源管理の強化
という3つの可能性が生まれると言いました。
国際的な発言力を強める効果
まず、MSC認証の取得は、国際会議で日本の意見により説得力を持たせるためにも役立つと鈴木さん。
PNA※など島しょ国では、多くのカツオ・マグロ漁業がMSC認証を取得し、持続可能な水産物を世界中に提供しています。「同じ土俵に上がるのが大事では」と言って鈴木さんが示したのは、インドネシアの例。
※ナウル協定加盟国(The Parties to the Nauru Agreement)の略称。加盟国は、ミクロネシア、キリバス、マーシャル諸島、ナウル、パラオ、パプアニューギニア、ソロモン諸島、ツバル。
インドネシアの漁業者たちは、一本釣りのサポート組織である「国際一本釣り漁業基金」の支援を受けて、MSC取得に向けて一気に動き出しているといいます。
国際交渉においては、他国との連携が大変有効です。日本の漁業者がこの動きに加われば、「MSC認証をきっかけに横のつながりもできるのでは」と鈴木さんは期待を込めました。
日本の消費者にカツオ問題を考えてもらうきっかけ作り
国内の先行事例としては、カツオとビンナガマグロの一本釣りでMSC認証を取得した明豊漁業があります。これまで同社には、SDGの目標14のアドボケイトを務めるスウェーデン皇太子の訪問を受ける、持続可能性に配慮したシーフードレストランを経営するシェフたちとの交流の場に招かれる、といった他社にはない機会が舞い込みました。
MSC認証が注目を浴びている今だからこそ、「認証を取得することが、カツオ問題や持続可能な漁業を広くアピールする一つの手段になるのでは」と鈴木さんは考えています。
太平洋におけるカツオ資源管理の強化
ただ、明豊漁業のMSC認証の際には、「条件」とよばれる期限付きの宿題が認証機関から出されました。太平洋のカツオ資源管理上必要とされるルールが不十分とされたからです。
「求められたのは、資源が減った時に漁獲をしっかり減らすためのルールです。今は資源量が豊富な状態と考えられていますが、これから黄色信号や赤信号がともった場合に備えて、資源枯渇を防ぐ仕組みが必要なのです」(鈴木さん)
CPFCの太平洋共同体事務局(SPC)によると、現在のカツオ漁業は緑色の「持続可能な範囲」に収まっており、資源量にはまだ余裕があります(右図)。しかし、漁獲量は増加傾向にあり(左図)、資源が減った場合のルール策定が求められています
この「資源が減った時に漁獲を減らすためのルール」は、MSCの規準に最初から入っている大切な要件です。魚群の保全が目的なので、いち漁業者が漁をする範囲だけではなく、その魚群の生息域全体が対象です。
国際的な管理の仕組みを変えるとなると、個々のMSC認証取得漁業の働きかけだけでは、なかなか難しいかもしれません。
でも、小規模漁業者が力を合わせて国際機関を動かした成功例もあります。明豊漁業と同じようにMSC認証の「条件」がついたモルディブの小規模な一本釣り漁業が、他国を巻き込み、インド洋のカツオの資源管理に漁獲制御ルールを導入することに成功したのです。鈴木さんが参加した「高知カツオ県民会議 第2回シンポジウム」の議事録にも、そのエピソードは出てきます。
「資源を管理する上で、資源が減ったら漁獲を減らすというルールはとても重要です。重要なことなので、みんなでルールを作っていったほうが良いのではないかと思います」(鈴木さん)
WCPFCで他国と一緒に新たなルールを作れるかどうかが、カツオ漁業の未来を左右するとも言えそうです。これは今後の動きに、要注目です。
魚価向上も?
実は、認証取得には数百万円という費用がかかります。とはいえ、さまざまなサポート体制が整ってきているので、全額を漁業者が負担する必要はありません。また、たくさんの漁船が合同で認証を目指すことで、1隻あたりの負担は小さくなります。

さらに、海外ではMSC認証を取得したカツオ・マグロ類への需要が高まっています。缶詰用に輸出することで、認証費用を上回る魚価向上が望めるのではないかと鈴木さんは言います。
身近なカツオから海の未来に思いを馳せて
このセミナーを主催した日本カツオ学会の事務局は高知大学内にあり、特別講演で登壇した副会長の受田浩之さんは、高知大学副学長でもあります。
同学会は、アカデミックな研究成果を踏まえつつ、「地域・領域・立場・学問など様々なレベルを超えて、カツオの価値を問い直すために、つむぎ合いましょう!」というキャッチフレーズを掲げて活動しています。
今回のカツオセミナーにも、料理人やメディア関係者など多様な人々が集まりました。一般講演の部では、キッコーマンやサントリーなど大企業系列の最新の研究や、長谷川香料の研究者が見つけた、カツオ節のかぐわしい新成分などの発表があり、最後まで盛り上がりました。
総合討論の締めに、司会の受田さんが、カツオなど地球の資源に関する国際交渉の場では、大きなビジョンが大事といった話をされ、その流れでコメントを求められた鈴木さん。
「単に五輪の2020年までに国産のMSC認証品が間に合うように、という視点ではなくて、SDGsの2030年や、次世代まで水産物を残さなきゃ、という意識が高まることによって、MSC(の仕組み)ももっと生かされるでしょうし、持続可能な水産物という活動自体も広がってくると思います」と述べ、海と森の関係やプラスチックごみにも言及して、「いろいろな分野で未来のことを考えている人たちと協働してやっていくことが必要」とまとめました。
そう。海の未来は私たちの未来。特にカツオには興味がないよ、という方も、ぜひ大きな視野に立ち、有用で素晴らしい価値を持つ身近な「カツオ」に、ご注目ください。きっと今日の食卓も、カツオのお世話になっているはずです。





