【フードライター浅野陽子の『海のエコラベル』現場より生中継!】
今年3月、MSCのグローバルアンバサダー・バートさんが来日し、日本人シェフとディナーイベントを行いました。(「シェフ4人のサステナブル晩餐会@原宿『eatrip』」)
コラボしたのは「Chefs for the Blue(海の未来を考える料理人集団/以下『CFB』)」のメンバーです。
前回の室田シェフに続き、このCFBのメンバーシェフに「サステナブルな未来」や、MSCへの思いを伺いました。
今回は、いま最も取材が難しい料理人の一人と言われる下北沢の「サーモン&トラウト」の森枝シェフのインタビューです。


下北沢と三軒茶屋のちょうど中間にある「サーモン&トラウト」の内観。おしゃれで洗練された雰囲気です。

森枝シェフに「海の未来を考えたひと皿」を作っていただきました。「ブラックバスのソテー」です。
海の魚ではなく、湖の魚のブラックバス(琵琶湖産)を使用することで、海の資源を守るメッセージを伝えているのだそう。

ブラックバスは、釣りをする人にはなじみがありますが、日本の飲食店では扱いが少ない魚です。しかし、食べてみると「旨味がのったタイやスズキ?」とまちがえるほどの濃厚な味わいで、食感もジューシー!
付け合わせは、やわらかなハーブ(クライトン)と、ボラの鮒寿司の漬け床(ワタ抜きした魚と塩、炊いたご飯を漬けて発酵)に、タケノコを和えたもの。まろやかな和のソースが、ソテーしたブラックバスと合い、おいしい!お酒が進みそうな味です。

それもありますが、フォトジャーナリストの父(世界の食に関する著書多数の森枝卓士氏)の影響を少なからず受けていると思います。
海の資源について、いまほど話題になっていなかった時代に「日本では魚がどこでも食べられるが、本当にたくさんあるのか?」と疑問に思い、専門書を読んで、自分なりに調べてはいました。

画像:森枝シェフが10代で修業したシドニーの名店「Tetsuya's」(同店サイトより)
先日のMSCのイベントでも話しましたが、現在31歳の僕は、料理人になってから「魚が安くて、大量にあった時代」を知りません。
シドニーから帰国して、日本の和食店で修業していた20代の頃は、築地に行くたびに「魚が足りない」「昔はもっと魚があった」と言われていました。
「これは相当まずい状況なのでは」と危機感を持ち、CFBの活動(2017年1月〜)以前から、独学で勉強していました。

画像:CFBでは約30名のシェフが定期的に集まり、勉強会や活動を行なっている(『メトロミニッツ』より)
高価格帯レストランに「資源管理」が重なる難しさ
ーーCFBに参加されてからはどのように思われましたか?
自分以外にも多くのシェフが、海の資源に関心を持っていることがわかり、世の中に変化を起こせるかもしれない、と期待感がわきました。
ただ前回、室田シェフも言われていましたが、コース料理で1万円以上をいただく僕らのような店では、サステブルな背景より「魚の味」の追求を、どうしても優先してしまいます。
高価格帯のお客さまを満足させられるクオリティに、資源管理という条件が加わると、素材探しは本当に難しいので、料理人としては悩ましいところです。
また、大型スーパーでの魚の取り扱い量と比べると、ガストロノミーの世界で使う分など、本当にわずかです。日本での魚の消費量の数パーセントにも満たない僕らが、なぜ困難な道にあえて挑まなければいけないのかとも思いますが・・・そう言っていたら、いつまでも変わらないですよね。
前回の記事や、前々回で佐々木さんも言われていましたが、シェフが積極的に発信していけば、誰かが反応し、世の中も少しずつ変わっていくのでは、と信じています。

画像:森枝シェフの魚への思いを感じる「サーモン&トラウト」の内観
ーMSCのことはいつ頃からご存知でしたか?
MSCについてはCFBの活動が始まるずっと前から知っていて、料理人として興味もありました。ただ、MSC認証の魚をすぐ店で使うのは難しくて…。
室田シェフと同じ理由ですが、現状では日本でMSC認証を取得している漁業が少ないこと。また、海外のMSC認証シーフードを使おうとすると冷凍品になってしまうことも、高価格帯の店では厳しいのです。資源管理に貢献したい思いと、現実にできることの差が大きく、ジレンマがあります。

画像:今年3月にMSCグローバルアンバサダー・バートシェフとコラボイベントを行なった森枝シェフ
「スズキ」「タイ」「ブリ」など、人気のある魚種に集中することが、枯渇の一因になっているので、先ほどのブラックバスのような魚を探して使っていくことも、僕ができることの一つだと思っています。
ブラックバスは、海外ではニューヨークのミシュラン三つ星店「Eleven Madison Park」でも使われているくらい、素材として評価されています。アンテナを張って、自分の足で探せば、そうしたものを日本で見つけることが可能です。
厳密にいうとサステナブルではないかもしれませんが、生産者とつながり、少しでも環境に貢献できる素材を探していきたいと思っています。

画像:ミシュラン三つ星、「世界のレストランベスト50」で1位も獲得したNYの「Eleven Madison Park」
ーー日本のMSC認証を増やすほか、MSCに期待することはありますか?
僕たち料理人は、MSCや資源管理に貢献しようと思っても、どの産地から仕入れるべきかいつも迷っています。「地域別・魚種別の資源管理状況」がひと目でわかる、一覧表のようなものがあればいいな、と思います。
たとえば、ホタルイカを使ったメニューを作りたい、と思ったとき、MSCのウェブサイトで検索したら「◯◯県のこの地域で揚がっているものなら、MSCの審査の途中だが、資源管理への熱意が高い」とわかるような。

チャート表は理想的ですが、日本でMSC認証取得漁業を増やすことも含め、ひと筋縄で進まないのは理解しています。MSC認証を取得した塩釜の明豊漁業さんを見学した際も、いろいろ感じました。
以前、僕が編集協力している食の雜誌『RiCE』で、魚の特集号をやったことがあります。漁師さんや、水産業界の人に話を聞いたとき、海の資源管理とご自身の商売をどのように両立させていくかについて、皆悩んでいることがよくわかりました。
僕自身悩むことも多いですが、あきらめずこの問題に取り組んで、CFBの活動はもちろん、取材を受けたときは各メディアで訴え続けていきたいです。
またMSC認証の魚を、店で使うのは難しくても、家で簡単に作れるプロのレシピをご提供することなどは可能ですし、MSCさんのイベントにも、喜んでご協力したいと思っています!
ーーぜひよろしくお願いします!森枝シェフ、本日はありがとうございました。

田園都市線「三軒茶屋」駅 徒歩12分
東京都世田谷区代沢4-42-7
080-4816-1831
ディナー18:00〜24:00L.O.
火・水定休
今年3月、MSCのグローバルアンバサダー・バートさんが来日し、日本人シェフとディナーイベントを行いました。(「シェフ4人のサステナブル晩餐会@原宿『eatrip』」)
コラボしたのは「Chefs for the Blue(海の未来を考える料理人集団/以下『CFB』)」のメンバーです。
前回の室田シェフに続き、このCFBのメンバーシェフに「サステナブルな未来」や、MSCへの思いを伺いました。
今回は、いま最も取材が難しい料理人の一人と言われる下北沢の「サーモン&トラウト」の森枝シェフのインタビューです。

【森枝幹(もりえだ・かん)シェフ】
1986年生、東京都出身。世界トップ10入りしたシドニーの名店「Tetsuya's」やミシュラン二つ星の日本料理店「湖月」(表参道)で修行を積む。
マンダリンオリエンタル東京の「タパス モラキュラーバー」や、屋台村「COMMON 246」(当時)への出店を経て2014年に「サーモン&トラウト」のシェフに就任。現在はシェフ業のほか、食の雑誌『RiCE』の編集アドバイザーや「鯖の塩焼き専門店 鯖なのに。」(大森)など他店のプロデュースを行い、多方面で活躍中。
1986年生、東京都出身。世界トップ10入りしたシドニーの名店「Tetsuya's」やミシュラン二つ星の日本料理店「湖月」(表参道)で修行を積む。
マンダリンオリエンタル東京の「タパス モラキュラーバー」や、屋台村「COMMON 246」(当時)への出店を経て2014年に「サーモン&トラウト」のシェフに就任。現在はシェフ業のほか、食の雑誌『RiCE』の編集アドバイザーや「鯖の塩焼き専門店 鯖なのに。」(大森)など他店のプロデュースを行い、多方面で活躍中。
森枝シェフの“海の未来を考えたひと皿”は「ブラックバスのソテー」

下北沢と三軒茶屋のちょうど中間にある「サーモン&トラウト」の内観。おしゃれで洗練された雰囲気です。

森枝シェフに「海の未来を考えたひと皿」を作っていただきました。「ブラックバスのソテー」です。
海の魚ではなく、湖の魚のブラックバス(琵琶湖産)を使用することで、海の資源を守るメッセージを伝えているのだそう。

ブラックバスは、釣りをする人にはなじみがありますが、日本の飲食店では扱いが少ない魚です。しかし、食べてみると「旨味がのったタイやスズキ?」とまちがえるほどの濃厚な味わいで、食感もジューシー!
付け合わせは、やわらかなハーブ(クライトン)と、ボラの鮒寿司の漬け床(ワタ抜きした魚と塩、炊いたご飯を漬けて発酵)に、タケノコを和えたもの。まろやかな和のソースが、ソテーしたブラックバスと合い、おいしい!お酒が進みそうな味です。
海の資源について、かねてから疑問を持っていた
ーーー和と洋が融合した、味わい深い一品でした。森枝シェフが修業された「Tetsuya's」に私も訪れたことがあり、海外のインスピレーションも感じます。10代で世界の食の現場を見てきたことが、シェフが海の環境を考えるきっかけになったのでしょうか?
それもありますが、フォトジャーナリストの父(世界の食に関する著書多数の森枝卓士氏)の影響を少なからず受けていると思います。
海の資源について、いまほど話題になっていなかった時代に「日本では魚がどこでも食べられるが、本当にたくさんあるのか?」と疑問に思い、専門書を読んで、自分なりに調べてはいました。

画像:森枝シェフが10代で修業したシドニーの名店「Tetsuya's」(同店サイトより)
「魚が安くて大量に獲れていた時代」を知らない
ーーCFBの世話人・佐々木ひろこさんに「森枝シェフはCFBで最も若いが、海の環境や資源管理についての知識はとても深い」と伺いました。先日のMSCのイベントでも話しましたが、現在31歳の僕は、料理人になってから「魚が安くて、大量にあった時代」を知りません。
シドニーから帰国して、日本の和食店で修業していた20代の頃は、築地に行くたびに「魚が足りない」「昔はもっと魚があった」と言われていました。
「これは相当まずい状況なのでは」と危機感を持ち、CFBの活動(2017年1月〜)以前から、独学で勉強していました。

画像:CFBでは約30名のシェフが定期的に集まり、勉強会や活動を行なっている(『メトロミニッツ』より)
高価格帯レストランに「資源管理」が重なる難しさ
ーーCFBに参加されてからはどのように思われましたか?自分以外にも多くのシェフが、海の資源に関心を持っていることがわかり、世の中に変化を起こせるかもしれない、と期待感がわきました。
ただ前回、室田シェフも言われていましたが、コース料理で1万円以上をいただく僕らのような店では、サステブルな背景より「魚の味」の追求を、どうしても優先してしまいます。
高価格帯のお客さまを満足させられるクオリティに、資源管理という条件が加わると、素材探しは本当に難しいので、料理人としては悩ましいところです。
また、大型スーパーでの魚の取り扱い量と比べると、ガストロノミーの世界で使う分など、本当にわずかです。日本での魚の消費量の数パーセントにも満たない僕らが、なぜ困難な道にあえて挑まなければいけないのかとも思いますが・・・そう言っていたら、いつまでも変わらないですよね。
前回の記事や、前々回で佐々木さんも言われていましたが、シェフが積極的に発信していけば、誰かが反応し、世の中も少しずつ変わっていくのでは、と信じています。

画像:森枝シェフの魚への思いを感じる「サーモン&トラウト」の内観
ーMSCのことはいつ頃からご存知でしたか?
MSCについてはCFBの活動が始まるずっと前から知っていて、料理人として興味もありました。ただ、MSC認証の魚をすぐ店で使うのは難しくて…。
室田シェフと同じ理由ですが、現状では日本でMSC認証を取得している漁業が少ないこと。また、海外のMSC認証シーフードを使おうとすると冷凍品になってしまうことも、高価格帯の店では厳しいのです。資源管理に貢献したい思いと、現実にできることの差が大きく、ジレンマがあります。

画像:今年3月にMSCグローバルアンバサダー・バートシェフとコラボイベントを行なった森枝シェフ
生産者とつながり、少しでも枯渇防止のためにできることを
ーー資源管理のため、森枝シェフご自身で現在、取り組まれていることはありますか?「スズキ」「タイ」「ブリ」など、人気のある魚種に集中することが、枯渇の一因になっているので、先ほどのブラックバスのような魚を探して使っていくことも、僕ができることの一つだと思っています。
ブラックバスは、海外ではニューヨークのミシュラン三つ星店「Eleven Madison Park」でも使われているくらい、素材として評価されています。アンテナを張って、自分の足で探せば、そうしたものを日本で見つけることが可能です。
厳密にいうとサステナブルではないかもしれませんが、生産者とつながり、少しでも環境に貢献できる素材を探していきたいと思っています。

画像:ミシュラン三つ星、「世界のレストランベスト50」で1位も獲得したNYの「Eleven Madison Park」
ーー日本のMSC認証を増やすほか、MSCに期待することはありますか?
僕たち料理人は、MSCや資源管理に貢献しようと思っても、どの産地から仕入れるべきかいつも迷っています。「地域別・魚種別の資源管理状況」がひと目でわかる、一覧表のようなものがあればいいな、と思います。
たとえば、ホタルイカを使ったメニューを作りたい、と思ったとき、MSCのウェブサイトで検索したら「◯◯県のこの地域で揚がっているものなら、MSCの審査の途中だが、資源管理への熱意が高い」とわかるような。
悩ましいが、あきらめずに取り組み続けたい
ーー★★★「地域別・魚種別の資源管理状況」がひと目でわかる、一覧表のようなもの、もしあったら資源管理に取り組みたいシェフには便利ですね。★★★
チャート表は理想的ですが、日本でMSC認証取得漁業を増やすことも含め、ひと筋縄で進まないのは理解しています。MSC認証を取得した塩釜の明豊漁業さんを見学した際も、いろいろ感じました。
以前、僕が編集協力している食の雜誌『RiCE』で、魚の特集号をやったことがあります。漁師さんや、水産業界の人に話を聞いたとき、海の資源管理とご自身の商売をどのように両立させていくかについて、皆悩んでいることがよくわかりました。
僕自身悩むことも多いですが、あきらめずこの問題に取り組んで、CFBの活動はもちろん、取材を受けたときは各メディアで訴え続けていきたいです。
またMSC認証の魚を、店で使うのは難しくても、家で簡単に作れるプロのレシピをご提供することなどは可能ですし、MSCさんのイベントにも、喜んでご協力したいと思っています!
ーーぜひよろしくお願いします!森枝シェフ、本日はありがとうございました。

「Salmon & Trout(サーモン&トラウト)」
京王井の頭線・小田急線「下北沢」駅徒歩9分田園都市線「三軒茶屋」駅 徒歩12分
東京都世田谷区代沢4-42-7
080-4816-1831
ディナー18:00〜24:00L.O.
火・水定休
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Writer:浅野陽子 Yoko Asano
フードライター&エディター。『dancyu』『おとなの週末』『ELLE a table』『日経レストラン』など料理専門誌に多数執筆し、“食”限定の取材歴19年。
2015年にMSC日本事務所の初代アンバサダーに就任し、現在はMSC日本事務所のブログの公式ライターを務め、国内の漁港、飲食店、小売企業などを取材している。個人ブログ「フードライター浅野陽子の美食の便利帖」も更新中。
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