【海洋ジャーナリスト瀬戸内千代の「もっと知りたい!MSC」】

先日、明豊漁業(宮城県塩竈市)が新しく造った一本釣りの「第三十七明豊丸」を見てきました! 同社は、カツオとビンナガ(ビンチョウマグロ)の一本釣りでMSC漁業認証を取得しています。

松永賢治社長を焼津に訪ねた昨年夏のブログで「新たに自社船1隻を建造中で、完成後は、提携他社の1隻(相対船)を含め、計4隻の一本釣り漁船を操業することに……」とご報告しましたが、その建造中だった船が完成したのです。

初出航を約1週間後に控え、塩釜港でお披露目会が開かれたのは2月24日。東北の春はまだ遠く風が冷たい朝でしたが、港の岸壁に着いたら、グンと体温が上がる光景が目の前に!
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ピカピカの「第三十七明豊丸」に、はためく大漁旗。そして完成を祝おうと駆け付けた人たちの笑顔。
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お久しぶりです、松永社長!
小さなご一行様も到着しました。
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漁港に可愛らしい声が響きます。
小学校や児童館でお披露目会を知った近隣の子どもたちが、先生やご家族に連れられてやってきたのでした。
この朝の1時間ほどは、自由に新しい船の中を見学できます。
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報道陣も多く、大盛況です。

そもそも船の新造は、しょっちゅうあることではなく、
漁師歴50年という「第三十七明豊丸」乗組員の方も「滅多に無いよ。俺は2回目かな」と言っていました。
早速、私も船上へ。
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一本釣りの舞台となる甲板を、皆さん興味深そうに見学しています。左のほうに数名写っているのはこの船に乗る漁師さん。

乗組員は30人ですが、驚いたことに、若い方ばかりです。漁師の高齢化が問題と聞きますが、この船は、それを感じさせません。
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左から船頭(漁労長)の里見さん、船長の斉藤さん

松永さんによると、「第三十七明豊丸」に乗るのは漁師歴数十年のベテランを含め、いずれも明豊漁業の船で経験を積んできた漁師さんですが、20歳が3人、21歳が1人など若手も多く、船員の半数以上を占めるキリバスやインドネシアの漁師さんを見ても、20~30代が中心です。

この日は見学も撮影も自由だったので、撮りたかった写真が撮れました。
船のへりにずーっと伸びている白いパイプにご注目ください。
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船頭の合図で、それ釣れ!となった時に漁師さんが脚を引っ掛けて体を支えるパイプです。
「第三十七明豊丸」は左舷にだけ付いています。

漁師さんはこれを頼りに踏ん張って、子どもの体重ほどある※ビンナガが針にかかった時も一人の腕力で海から上げるわけです。なるほど、若い漁師さんが多いのも納得です。

ただ、漁師歴50年で「あと1,2年かな。続けられないよ」と話していた漁師さんが、「波を見てタイミングを合わせると上がるんだ」と教えてくれたので、体力だけでなく、やはり経験も大事なのだと思います。
※カツオは3~8kg、ビンナガはその倍ぐらい

釣り上げた魚は、漁師さんの背後一面に張った天幕(上の写真では向こう側に巻き取ってある青いシート)に、後ろ手にどんどん放り投げられ、滑り落ちてレールの中に集まります。

魚群を追って遠洋を航海するこの船の場合は、魚はそのまま冷凍庫へと流れていきます。
釣ってその場で即冷凍!というわけです。
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冷凍庫に続く魚の滑り台も撮影できました。

甲板の下に巨大な冷凍庫を備えているこのタイプの船は、生のまま魚を持ち帰る近海向けの一本釣り漁船よりもずっと大きく、「第三十七明豊丸」は499トン。
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「俺が25年ぐらい前に水産業界に入ってから、このタイプ(冷凍一本釣り漁船)の隻数はずっと右肩下がり。全国で40隻ぐらいあったのが下がり続けて22隻になっていたところに、この船ができて初めてグラフがピッと1つ上がったんだよね」(松永社長)
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この記念すべき一本釣り漁船「第三十七明豊丸」の初仕事は、3月4日に焼津港から出航するカツオ漁です。太平洋の南方でカツオを釣って4月半ばに帰国予定。松永社長によると、その魚を私たちが店で買えるのは5月末ぐらいになりそうです。

ビンナガはこの船の2航海目ぐらいから釣れる予定で、「第三十七明豊丸」は今後ずっと長い航海を繰り返します。そして水揚げのたびに、明豊漁業の拠点がある焼津または塩釜の港に帰ってきます。

ところで、カツオ船が1隻増えることで、資源への影響はないのでしょうか?

MSC日本事務所漁業担当の鈴木さんによると、漁場(中西部太平洋)のカツオの資源量は、豊富なレベル(高位)にあるそうです。また、漁場全体の水揚げに対して、カツオ1本釣り船の漁獲はごくわずか(年間200万トンの総漁獲に対して一本釣り漁船1隻の漁獲が1000トン程度)で、混獲などの影響もほとんどなし。そのため、今回は、審査機関に対する簡単な報告によって新船をMSC認証の範囲に加えることができたそうです。

さて、船の見学に戻りますね。
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ここは高い場所にある指令室。
双眼鏡を手放さない小さな船長さんのホッペが可愛いです。
女の子は船舶用のモニターを一心にのぞきこんでいました。

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今日は特に、大漁旗が舞っていて格別の眺め。
実は、たくさんの旗に混じって、この船の門出を祝してMSC日本事務所が贈った旗も……、ほら、ここに……。
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あいにく潮風でもみくちゃでした(笑)。
どんな旗だったかは、こちらの写真でご覧ください。
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MSC日本事務所 漁業担当の高宮城さん(左)と鈴木さん(右) ※MSC日本事務所よりご提供

お披露目会が終わり、子どもたちに「今日は寒い中ありがとう!」と閉会のあいさつをした松永社長に、温かい拍手が送られました。
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おめでたいセレモニーに参加した帰り道、気分が良いので漁港から本塩釜駅(最寄りの東塩釜駅の隣駅)まで歩いたら、塩釜の魅力と同時に、街に刻まれた震災の記憶にも出合いました。今回は、その思い出のスナップで終わります。
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左上:3.11の大津波を乗り越え、その後も活躍して35年の船の一生を全うした巡視船「おしか」(震災当時は「まつしま」)のいかり。1隻の船の誕生を見てきた帰りだけに感無量。

右上:「握りの中(最も安価)でもじゅうぶんに美味しい」と聞いて寄った人気店「すし哲」の中握りとあら汁。食後のシャーベットも含め計2000円ちょっとで評判通り非常に美味! なお塩釜は寿司屋だらけですが、たいていは生魚使用です。冷凍一本釣りの明豊漁業さんの魚はイオンなどで買って味わいましょう。

右下:震災慰霊碑。後ろの石碑に刻まれた津波到達2.3mの高さを見上げる。東日本大震災では塩竈市民65名が犠牲になりました。

左下:仙台と石巻を結ぶ仙石線「本塩釜」駅のポスト。魚のまち・塩釜らしいオブジェです。ちなみに、行きにこの駅から乗ったタクシーの運転手さんは、昔は遠洋マグロ漁船に乗っていたという元漁師さんでした!


               

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