【海洋ジャーナリスト瀬戸内千代の「もっと知りたい!MSC」】

ロンドンに拠点を置くMSC(海洋管理協議会)がめでたく20周年を迎えた今年、MSCのCEOであるルパート・ハウズさんが来日しました。MSC日本事務所にとっても今年は設立10周年という節目。そこで、「MSCと日本のこれから」をテーマに、お話を伺いました。
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ルパート・ハウズさん。日本事務所プログラム・ディレクターの石井幸造さんと

――4年ぶりの来日ということですが、どんな変化を感じましたか?

 サステナブルシーフードに関する取り組みが格段に進歩していますね。

――先日は日本企業のイオンが、アジアで初めてGSSI※に参画したわけですが、MSCのアジアにおける展望は?

※(以下、※は筆者注)世界水産物持続可能性イニシアチブ(Global Sustainable Seafood Initiative)の略称。GSSIは、MSC(海洋管理協議会)のように認証の審査規準を設定する機関ではなく、実際に審査を行う認証機関でもなく、水産に係る各種認証制度を外側からチェックする国際的な組織。MSCをはじめ多くの認証制度は、それ自体が客観性を担保する仕組みを持っているが、GSSIは、それら認証制度の信頼性や厳格性について、国連食糧農業機関(FAO)のガイドラインに則り、独立した立場から認定を行っている。MSCは2017年3月に、国際的な認証制度としては世界で最初にGSSIに認定された

 イオンは、MSCおよびASC認証品の自社の調達目標を掲げ、それを先日のEU主催の「Our Ocean Conference」でも宣言していましたね。

 アジア、特に日本の皆さんがより多くの認証製品を購入できるように、小売や漁業関係の方々には、今まで以上に認証プログラムに参加していただきたいと思っています。

――先日、東京サステナブルシーフードシンポジウムで、日本の漁法「定置網※」が科学的根拠を伴う持続可能な漁法だと示せるような仕組みがほしいという声を聞きました。そういった日本の事情に沿ったMSCの施策はありますか?

※網の入り口が開いていて魚が自由に逃げ出せる定置網は、日本では従来「生態系にやさしい」漁法と考えられてきたが、漁獲規制のあるクロマグロ幼魚が大量に入ってしまうなど、獲る魚種を管理しきれない点は課題と指摘されている

 MSCの認証規準はFAO(国際連合食糧農業機関)のガイドラインに基づいていますから、毒薬や爆弾を使う漁を除き、基本的には全ての漁法に門戸を開いています。つまり、地域、漁法、漁具、対象魚種に関係なく、どんな漁業でもMSCの認証プログラムに参加できます。そして、あくまでもMSCは任意の(voluntary※この意味については後述)認証プログラムなので、漁業者の方々から参加を申し出ていただく必要があります。

 ただ、MSC認証は対象魚種単位で、1つか2つの種について審査する仕組みであるため、複数種が同時に獲れる定置網漁が認証されにくいという事情は確かにありました。そこでMSCでは今、2018年に向けて、複数魚種を対象とする認証規準を策定する準備を進めています。

――複数種の「混獲」が、MSC認証をアジアで広める場合の最大の課題なのでしょうか?

 それもありますが、MSCの審査規準は持続可能性のハードルが非常に高いため、いくつものデータを必要とします。アジアで主に課題になるのは、データ、つまり科学的証拠の不足です。

――では、MSC認証を取得したい漁業者は、データを残す努力をすると良いのですね?

 やはりデータが多ければ多いほど、審査を通る可能性は高くなるでしょうね。審査を行うのは独立の第三者認証機関で、私たちMSC(海洋管理協議会)は認証プロセスに一切関わっていないので、認証を得られると断言はできませんけれども。
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ⓒMSC Japan

――日本の漁業者に伝えたいことは?

 世界の全ての漁業が持続可能であれば、MSCのような仕組みは必要ありません。ただ実際は、世界の水産物の3分の1以上が過剰漁獲されていて、年々魚が獲れなくなってきています。ですからMSCとしては、もっともっと多くの漁業者の皆さんに認証プログラムに参加していただきたいと願っています。

 その一助として現在MSCでは、「移行プログラム」の策定を計画中です。まだMSCの3原則を満たしていない漁業を支援する仕組みです。MSCの予備審査を受けていただいた漁業に対して、現状の問題点を示し、それを改善するための行動計画を立てて、本審査に入ることができる段階まで持っていく。それを、この移行プログラムで、お手伝いしたいと考えています※。

※MSCの予備審査を受けた漁業が、必ずしもすぐに本審査に進むわけではなく、改善を行った後に本審査に進む漁業が少なくない(石井さん談)

 移行プログラムに取り組んでいる間は当然、その漁業はまだMSCの「海のエコラベル」を付けられませんし、消費者に認知されないので市場からの恩恵を享受することも全くありません。けれども、このプログラムを経て、いずれはMSC認証のプログラム(本審査)に参加していただけるのでは、と期待しています。

――それは、いわゆるFIP(漁業改善プログラム)の一種でしょうか?

 いろいろなFIPがあって、しっかりと改善できるプログラムばかりではありません。MSCが準備中の「移行プログラム」では、改善の定義を明確にして、モニタリングをし、成果をしっかり報告する義務のようなものを漁業に求めます。

――より良いFIPのためのガイドラインを、MSCが提供するということですね?

 はい。まだ計画段階ですが、一つのツールとしてご提供すべく協議中です。FIPを手掛けているNGOなどに研修のような場で「移行プログラム」を使っていただき、どういうふうにして成果を上げていったらいいのかを議論していただくイメージですね。FIPがそれぞれの改善計画をしっかりモニタリングして、それについて報告できるようなメカニズムを提供したいのです。

 この件に限らずMSC(海洋管理協議会)でやることは全て、多様なステークホルダー(関係者)との協議によって決まります。ステークホルダー協議会を経て、ガバナンス委員会にかけて、ようやく提供できる形になるので、完成は来年あたりの予定です。

――ところで、設立から20年が経ち、MSCを取り巻く環境に変化は起きていますか?

 世界的に今、海の健全性に対する関心や懸念が増していて、課題の解決方法の一つとして、特に北米・アジア・欧州で、MSCへの関心が高まっています。

 2015年に国連が17の持続可能な開発目標(SDGs)を策定し、その14番に、海洋に特化した目標を掲げたことも大きな出来事でした。SDG14という枠組みがしっかりできたことで、大手の水産会社や小売企業の目標が明確になりました。

――日本の企業の取り組みを、どう見ていらっしゃいますか?

 日本企業は積極的にMSC認証に基づく持続可能な調達に取り組んでいると思います。三大水産企業(マルハニチロ、日本水産、極洋)は持続可能なシーフードビジネスのためのイニシアチブに参加していて、SDG14を達成しようという意欲に燃えています。それに、小売企業もイオンや生協が昔からMSC認証品の調達に熱心に取り組んでおられます。

 とはいえ、世界的な魚食の広がりに伴い、過剰漁獲されている魚種は急増中で、かなり緊急に改善しなければならない状況です。

 関係者の皆さんには持続可能な水産物の調達をもっともっと増やしていただき、日本の消費者の方々にも、水産物を購入する時に「この魚は、どのように獲られ、どこから来たのか。果たして持続可能な漁業由来のものなのか」という問題意識を持っていただきたいです。

 確かに欧州はMSC発祥の地ですし取り組みが進んでいますが、私は、正しい情報を提示することができれば、どこの国であろうと正しい選択をすると確信しています。MSCの取り組みが普及すれば消費者の意識もどんどん変わっていきますし、意識が変われば企業に働きかけ、反対に企業も消費者に働きかけるでしょう。皆さんが問題意識を持って課題に取り組むことができれば、必ずや持続可能な漁業を実現できると思っています。

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 以上、私にとっては4年ぶりのハウズさんインタビューでした(4年前のインタビューはこちら)。
 日本では、MSCという名称を知っている人たちの間でも、認証を与える主体のように誤解されていて、MSCを主語にして審査や認証が語られることがあります。でも実際のMSCは「海洋管理協議会」という非営利団体の略称であり、審査をする認証機関とは独立した全く別の組織。認証規準をつくったり、「海のエコラベル」の使用管理・承認をしたり、認知度アップのためのイベントを開催したり、「MSC認証制度」全体を下支えする活動をしています。

 ハウズさんとお話しして、改めて、そこに通底するボランタリーな精神に感じ入りました。この「ボランタリー」という言葉は、今回のインタビューのカギだったように思います。

 改めてロングマン英和辞典で意味を調べたところ、1番目の意味に「自発的な、自由意思の」とありました。MSCは、海と魚の未来のために何かしたいという自立的な個々が集結して成り立っているのです。逆に言えば認証制度の中身は多角的な意見を出し合わなければ発展せず、多彩な人材が積極的に関われば関わるほど改善していくのだと思います。

 先日のシンポジウムでも、サステナブルシーフードの普及のために、「人任せでなく自発的に動こう」というメッセージが最終的に浮上してきていました。結局、大切なのはそういう意思なんですよね、きっと。

 では次回は、同日に行われた記者向け説明会(メディア・ブリーフィング)の様子をご紹介します。

               

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