
前回から引き続き、MSCスタッフブログでは西オーストラリアの漁業を紹介します。
本題に入る前に、うれしいニュースがあります!
前回紹介した審査中の漁業のうち、2漁業が認証を取得したのです。
西オーストラリアでは、州政府が約12億円の予算を組み、州内のすべての漁業に対して
MSC認証の審査を受ける機会を提供しました。
2013年より、約50の漁業に対して予備審査が行われ、現在までにほとんどが完了しました。
すでに予備審査が完了した漁業は、その結果に基づき、州政府の予算で本審査に進むことができます。
この制度を利用して、これまでに5つの漁業が本審査に入りました。
これら5つの漁業のうち、最初に本審査に入ったのがエクスマウス湾とシャーク湾のエビ漁業です。
この2つの漁業は、2014年8月に同時に本審査に入り、1年余りの審査を経て、先週10月22日に
MSC認証を取得しました!
(詳しくはこちら)
MSC漁業認証が、欧米だけでなく、アジア太平洋地域にも広がってきたことは、私たち
日本事務所としても本当にうれしいことです。
この調子で、持続可能な漁業がどんどん増えてくることを願っています。
<シャーク湾の漁業者代表と、MSCのルパート・ハウズ最高責任者(右から2番目)>

さて、今回紹介するのは、2015年2月に本審査入りしたボラ漁業です。
場所は、西オーストラリアのマンドゥラという町。
ここに、ピール・ハーベイという入り江があります。
南北10㎞以上にわたって、水深数十センチの浅い海が続き、豊かな生態系を育んでいます。
渡り鳥にとっても貴重な場所で、ラムサール条約にも指定されています。

ここは、かつては150人ほどの漁業者が商業漁業を営んでいたそうです。
しかし、現在では商業漁業を営む漁業者は11人しかいません。
原因は、日本のような高齢化や後継者不足ではありません。
水産資源が豊富な西オーストラリアでは漁業はもうからない産業ではありません。
しかし、環境を保全しようという市民の声が強く、漁業に対する風当たりが非常に強いことが、
漁業者が減少していった原因になったそうです。
自然が豊かで、かつ比較的裕福な人々が住む西オーストラリアでは、3人に一人が
レジャーでの釣りを楽しむそうです。
多くの人が、ヨットやボートを所有し、週末には家族や友人と釣りを楽しみます。
(この写真のようなヨットハーバーがあちらこちらにあります!)

そうした週末の遊漁者にとって、商業漁業の漁業者は目の敵なのです。
「漁業者は漁網を使って魚を根こそぎ獲っている」
「商業漁業が魚をたくさん獲るせいで、遊漁者は釣りを楽しむことができない」
という漁業に対するネガティブなイメージが強く、風当たりが非常に強いそうです。
そんな圧力から漁業を守ろうとしている漁業者の一人が、ダミアン・ベルさんです。
ダミアンさんは、MSC認証取得に向けて、漁業者を取りまとめ、遊漁組合と
議論を重ねてきました。
ダミアンさんたちは、ボラ漁業とワタリガニ漁業での認証取得を目指し、
今年2月に本審査に入りました。
ボラ漁業は商業漁業だけですが、ワタリガニ漁業の認証取得グループには遊漁組合にも
参加してもらいました。
そうすることで、認証費用が分担できるだけでなく、遊漁者の漁獲情報が得られ、
より強固な資源管理を行うことができるようになるからです。
9月9日、ダミアンさんの船に乗せてもらうことになりました。
朝8時に船着き場で待ち合わせました。
MSC西オーストラリア事務所のマット・ワトソンと一緒に待ち合わせ場所に向かいます。
天気予報は晴れ。最高気温は30度という予報です。
絶好の漁業日和です。
ダミアンさんは、車の後ろにボートを牽引しながら、少し遅れて到着しました。
長さ6mのボートに、長さ150mの網を積んでいます。
これは、この潟湖で操業する漁業者共通のルールです。
網目の大きさも決まっています。
8時20分に船着き場を出発しました。
偏光グラスのサングラスをかけ、肉眼でボラの群れを探しながら、漁場に向かいます。
「ボラは暖かくなると体がむずむずしてきて、体についた寄生虫を落とすために跳ねる。
どこにいるか、漁師に教えてくれるってわけさ。
まったくばかな魚だよ。」
船着き場をでて20分後、さっそくボラの群れを見つけました。
猛スピードでその群れのところにボートを寄せ、網の先端についた浮きを投げ込みます。
そして、美しいカーブを描きながら、ボラの群れをぐるっと巻きました。
元の場所に戻ると、先ほど投げ込んだブイを拾い、網の一端をボートに括り付けます。
それから、手で網を引っ張ります。
網が近づいてくるとボラは驚いて逃げようとし…網に刺さってしまいます。
(「旋き刺し網」という漁法で、日本にもあるということを帰国後に千葉県の漁師さんに
教えていただきました)
<網を積んで、漁場を目指します。>

<ボラの群れを探しながら、足で船を操縦します。>

<網を入れ、ぐるっと巻きました。>

<網を引っ張ると、ボラが次々と揚がってきます。>

<お腹のすいたペリカンたちが集まってきました。もちろん、野生です。>

<とても浅い海なので、網から外れたボラは、飛び込んで手で捕まえます。>

<クーラーボックスに入れられたボラ。海で獲れるボラなので、臭みがまったくありません。>

持ってきたクーラーボックスいっぱいにボラを獲りました。
これで、100㎏くらいです。
ダミアンは1日に150㎏から200㎏くらいのボラを獲るそうです。
何度も網を打てばもっとたくさん獲れるのでしょうが、ほどほどにしておきます。
獲りすぎると価格が下がってしまうので、価格が維持できる量に留めておきます。
お客さんから注文があるときは多めに獲り、注文がないときは少なめに獲ります。
このように、価格を維持することが、獲りすぎを防ぎ、資源管理につながっています。
ここのボラ漁業は、いわゆるインプットコントロール(努力量規制)で、漁船の大きさ、
漁業者の数、漁網の幅や長さ、網目の細かさなどによって資源を管理しています。
水揚げ量の規制はありませんが、それでもうまくいっている事例で、日本でも見習えそうです。
さて、1回目の漁獲ではやや足りないので、次の漁場を探しに行きました。
「太陽が出ると水温が上がってボラが跳ねる」
予報が晴れだったのにも関わらず、太陽は雲に覆われてしまいました。
ボラの群れはなかなか見つかりません。
<鏡のようにおだやかで美しい海です。>

<湾奥の干潟には、ペリカンをはじめ、海鳥が集まっていました。>

ボラを探して、入り江を探し回りました。
海草がスクリューにからみつき、外さなければならない場面も何度もありました。
ダミアンのいらいらが伝わってきて、乗せてもらっているマットも私も、早くボラが獲れることを
祈るばかりです。
1時間後、ようやくボラの群れが見つかりました。
ダミアンは、網を投げ入れ、ボートで円く弧を描いていきます。
<ようやく2回目の網を入れました。>

<網にかかったボラを外します。>

<1回目よりも大漁です!>

<たくさん獲れたので上機嫌のダミアン。>

<最後は、網で小さく囲い、水面をばしゃばしゃ叩いてボラを網に誘い込みます。>

<外しきれないので、網にかかったまま船着き場に戻ります>

<ガッツポーズ!マット(左)とダミアン(右)>

帰りは速度を上げ、大急ぎで船着き場に戻ります。
途中、漁業省の調査船や、仲間の漁師さんと会い、ちょっと立ち話。
<ワタリガニの資源調査をする漁業省の研究員たち。楽しそうです>

<「どうだい?」「大漁だぞ!」「こっちは全然だー」>

<11時半に船着き場に戻りました>

<ボートを牽引しながら、別荘地のような住宅地を行くダミアン>

自宅に併設された作業場で網にかかったボラを外しながら、ダミアンが
MSC認証にかける思いを語ってくれました。
私も、作業を手伝いながら話を聞きます。

「おれたちはまず漁業を守らなくちゃいけない。
プロモーションも大事だけど、漁業を守るのが先だ。
ここの人たちはみんな漁業は環境に悪いと思っている。
網を使う漁業は、魚を一網打尽にして、海底環境を破壊していると思っている。
でも、おれたちの漁業はそんなんじゃないんだ。
おれたちは、おれたちの漁業がサステナブルだってことを示さなきゃならない。
そのためには、第三者による認証が絶対に必要だ。
おれたちの漁業がサステナブルだってことを示す唯一の手段がMSC認証だ。
MSC認証を取れば、誰も文句を言わなくなる。
だからおれはMSC認証を取りたいんだ。」
漁業を守りたいというダミアンの熱い気持ちが伝わってきました。
世界にはたくさんの漁業があり、それぞれが個別の問題を抱えています。
その問題の解決策としてMSC認証が選ばれたことを、とてもうれしく思います。
ダミアンたちのボラ漁業がMSC認証を取得し、持続可能な漁業として地域に認められることを
切に願います。
日本でも、漁業の抱えるさまざまな具体的な問題に対し、解決策を提供していけるよう、
がんばりたいと思います。
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