【海洋ジャーナリスト瀬戸内千代の「もっと知りたい!MSC」】
「海といつまでも」看板

学校が、どこも夏休みに入り始めました。「横浜みなと博物館」では今、
企画展「オドロキ!日本・海の環境と開発~海といつまでも」を開催中です。

今年2019年は、同館にとってリニューアル10周年、前身の横浜マリタイムミュージアムから数えて30周年という節目の年。それを記念する特別な企画展に、MSCの紹介が展示されていると聞き、取材してきました。

横浜港の歴史がテーマの「博物館」が、MSCの海のエコラベルを紹介するという、ちょっと意外な取り合わせが気になります。

横浜みなと博物館は、海関係のミュージアムにしては珍しく、電車の駅(桜木町駅、みなとみらい駅、馬車道駅)から歩いてすぐの便利な立地で、建物は、弧を描いた1階建ての個性的な姿です。

横浜みなと博物館

企画展の会場(特別展示室)は、入口からチケットカウンターへ、そこから入って左方向に進み、地下に下りたところにあります。

チケットカウンター
チケットカウンター
横浜みなと博物館map
横浜みなと博物館ホームページより(矢印を追記)
「海といつまでも」入口
企画展のエントランス。左が入口、右が出口

MSCの展示があるのは、会場の出口近く。「いつまでもお魚を食べつづけたい」として、魚食関連の話題が集められている一画にパネルが数枚あります。
いつまでもお魚を食べつづけたい
MSCの展示
この写真の中央あたりの数点が、MSCの展示です

そして、出口のテーブルには、MSC日本事務所が8月2日(金)に企画展会場の前で開催する「MSCクイズイベントのちらしやMSCの資料がありました。

MSCに関する展示自体は少ないのですが、この企画展は一見の価値ありです。それを、これから、ご紹介します!

MSCクイズイベント

なお、MSCクイズイベントは、MSCスタッフと一対一でのQ&Aを通じて「海のエコラベル」を知っていただこうというもので、8月2日(金)10:30~16:00に開催されます。当日の時間内は随時受け付けで、もちろん入館料以外の追加料金はかからず、お土産付きです。夏休み中のお子さんたちとご一緒に、いかがでしょうか。

MSCクイズイベント

オドロキが企画の原動力

企画展「オドロキ!日本・海の環境と開発~海といつまでも」(ちらしPDF)は、約200点の展示物で、「日本の海の環境を守り、海の恵みを活かすさまざまな取り組み」を紹介しています。

四角い会場をコの字形に進む順路ですが、以下、水産物関連の展示だけ、かいつまんでご紹介します。

MSCの左隣は高知県の「黒潮牧場」の紹介です。漁礁となる大きなブイを太平洋に浮かべて「牧場」と呼んでいますが、餌などまかなくても、大海原に出現した物陰に安心するのか、回遊魚が集まってくるそうです。漁業者にとっては、「牧場」に向かえば魚があつまっているということで、漁船の省エネにつながるとのこと。

この説明をしてくださったのは、今回、取材にご協力くださった島宗美知子さん(公益財団法人 帆船日本丸記念財団 総務部学芸課 課長補佐)です。同展の企画を担当されました。

横浜みなと博物館 島宗さん

「ふだんは歴史が専門なので、企画展の準備中は、馴染みのない分野の素晴らしい取り組みの数々に、へぇ!と驚いてばかりでした。海について学ぶため、いろいろな勉強会や現場に行きましたが、そこで出会う皆さん、本当に海に対する思いが強いんですよ。もう、感動しましたね」

イキイキとした語り口に、企画展名の「オドロキ!」に込められた思いを実感できました。

島宗さんは約1年前から、これまでの人脈に加えて新たに海の各分野の専門家と会い、初耳のディープな情報にワクワクしながら、紹介するトピックスを選出。途中で企画展連動企画「海のプロフェッショナルのミニトーク」の講師もリクルートして、今年の海の日(7/15)に展示をスタートしました。

紹介するトピックスの一つに、MSCを選んだのはナゼでしょう?とおたずねしたら、「横浜で継続的に開催されている海の勉強会に、個人的に何回か参加したんです。そこで出会ったお魚の先生が、水産資源を守る取り組みとしてMSCのことを教えてくださいまして。早速、MSCの日本事務所さんにお声がけしたら、もう即答で(笑)、企画展にご参加くださったんです」とのお答え。ここ1年の島宗さんの積極的な取材活動が招き寄せた有り難いご縁だったことが分かりました。

MSCの展示の近くに「未利用魚」の活用が紹介されていますが、これもまた、勉強会で出会った地元・横浜の鮮魚卸会社※の方との会話が発端だったそうです。
※横浜丸魚株式会社さん。8月8日(木) 13:30~の「海のプロフェッショナルのミニトーク」に登場します

未利用魚の利用

「小さい魚や、数が獲れない魚は、流通せず廃棄されがちですが、それを学校給食などに使えたら、漁業者さんの収入になるわけです。魚市場のそばにある横浜市立幸ケ谷小学校は海洋や水産の教育に熱心で、児童が考案した未利用魚料理のレシピが魚市場内に掲示されていたり、大人も子どもも一緒になって活動しています。この『地域ぐるみ』が、とても良いんです」(島宗さん)

別のコーナーには、横浜の海でワカメを育てる「夢ワカメ・ワークショップ」や昆布を育てる「ブルーカーボン・ヨコハマコンブプロジェクト」、アマモ場の創出活動などの展示がありました。

夢ワカメ・ワークショップ
企画展ちらし(数通りあります)に掲載された海辺つくり研究会の「夢ワカメ・ワークショップ」

同館に近い海で18年間も続く「夢ワカメ・ワークショップ」(NPO法人 海辺つくり研究会主催)は、環境活動とはいえ「とにかく楽しいイベントでした!」と参加した島宗さんも絶賛の人気行事です。

また、八景島シーパラダイスの近くの海で昆布を育てる「ブルーカーボン・ヨコハマコンブプロジェクト」(一般社団法人 里海イニシアティブ)によると、昆布は海中から二酸化炭素を吸収する能力が特に高いそうです。

横浜産のワカメや昆布は、インターコンチネンタルホテルや有名レストラン「霧笛楼(むてきろう)」のシェフたちも活用しているとのこと。おしゃれな港町ヨコハマらしい展開です。

そして、窒素やリンを消費して都会の海を浄化し、しかも光合成で二酸化炭素吸収量の増加にも貢献する海藻を育てる取り組みは、横浜市のブルーカーボン推進※とリンクしています。
※ブルーカーボンについて知りたい方は、横浜市温暖化対策統括本部が登壇する8月7日(水)11:00~の「海のプロフェッショナルのミニトーク」へどうぞ

横浜ブルーカーボン・オフセットマーク
横浜ブルーカーボン・オフセットマーク

あとは、水産資源に影響を与える海ごみや、海洋の持続可能性を掲げたSDGs(持続可能な開発目標)の目標14に関する展示もありました。
※SDG目標14において、MSCの認証プログラムは、海を救うための重要なツールのひとつとして国連にも認められています。詳しくはMSCウェブサイトで!
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横浜港をキレイに保っている清掃船の模型。右奥に見えるのは、展示用に洗って貸し出してもらったというプラスチック性の海ごみの実物

日本の海の未来を考えるヒントが満載

他に、最新のエコシップ(環境に配慮した船舶)や海洋再生可能エネルギー、海底に眠る鉱物資源の展示もあって、改めて、海の話題の幅広さにオドロキました。

解説文だけでも、かなりの情報量。そこかしこに、未来へのヒントが散りばめられています。

島宗さんは特に、海底探査の関係者から聞いた「日本は資源大国になれるかもしれない」という話に、日本の若者の明るい未来を思って胸が踊ったそうです。ガラスケースの中のレアアースは、レプリカでなく本物です。とても重たいそうです。さわれませんが、お見逃し無く。

お子さんには、ちょっと難しい内容もありますが、パネル以外に現物や模型もあるので、何かしら心に響くものがあると思います。夏休みの自由研究のテーマが、ここで決まるかもしれません。


撮影して拡散!

「海の活動に関わる方たちは熱意がすごくて、『もっと自分たちの活動を知ってほしい』という思いから、展示品の貸し出しにも大変協力的でした。撮影を快く許可してくれる方も多く、逆に、いいんですか?と、こちらが聞いてしまったぐらいです」(島宗さん)

よく見ると、船舶模型など、いろいろな展示物に撮影OKの印(カメラのマーク)が付いています。ハッシュタグも書いてあるので、ジャンジャン撮影してSNSで拡散しましょう。

撮影OK
(撮影OKの印がないものは、今回の取材で特別に許可をいただいて撮影しています)

このハッシュタグにある「#海といつまでも」こそ、多岐にわたる展示の全部に共通するメッセージです。

MSC認証も、海の環境や生態系を守りつつ、海の資源を利用させてもらう漁業を未来永劫に続けていくための一つのアイデア。最初は異色の取り合わせ?と思ったけれど、よく考えたら、MSCの趣旨は、この企画展のテーマにぴったりなのでした。

企画展「オドロキ!日本・海の環境と開発~海といつまでも」
時間:10:00~17:00
休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)※8月13日(月)は休
入館料:小・中・高校生・65歳以上は100円、一般は200円(企画展のみ見学の料金。横浜みなと博物館の単館券、帆船日本丸との共通券でも本展をご覧になれます。詳しくはこちら

横浜みなと博物館は30周年を記念して、常設展示室(1階)で秋まで、貴重な写真などを公開しています。
展示

その1枚が、オープン当初の航空写真。このような位置関係で、弧を描いて建つ博物館の正面の水路に、帆船日本丸が浮いています。この帆船が海からもよく見えるように、博物館の建物は独特な形状をしているわけです。

日本丸

2017年に国の重要文化財に指定された「帆船日本丸」の中は展示室になっていて、順路に沿って、船内を見学できます。また、横浜みなと博物館内には昨年オープンした柳原良平アートミュージアム(トリスウイスキーのあのキャラクターでおなじみ!)も併設されています。

そして、毎週土曜は、小中高生なら、100円ワンコインで企画展&常設展(柳原良平アートミュージアム含む)&日本丸を堪能できます!

企画展の会期は9月29日(日)まで。8月25日(日)、9月16日(月・祝)、9月29日(日)には、企画展主催の「海といつまでもクイズラリー」が開催されます。そして、この3日間は、いずれも、帆船日本丸が帆を張る「総帆展帆(そうはんてんぱん)」の日です。晴れるといいですね!

MSCのクイズイベントは、単発で8月2日(金)のみです。間に合うタイミングにこれを読んでくださった方は、ぜひ狙ってお出かけくださーい!

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瀬戸内 千代 (せとうち・ちよ)
海洋ジャーナリスト。雑誌「オルタナ」編集委員、ウェブマガジン「greenz」ライター。1997年筑波大学生物学類卒業後、理科実験器具メーカー、出版社等を経て2007年に独立。東京都市大学環境学部編著『BLUE EARTH COLLEGE ようこそ、「地球経済大学」へ。』(2015年、東急エージェンシー)、笹川平和財団海洋政策研究所編『海洋白書』の編集に協力。任意団体「海の生き物を守る会」、特定非営利活動法人OWSなど海のNPOの機関誌の編集も。趣味は旅と磯遊び。

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