【海洋ジャーナリスト瀬戸内千代の「もっと知りたい!MSC」】

~石原水産MSC認証取得! 記念連載その4(5回シリーズ)~

今回は、漁労長インタビューの後半をお届けします。前半で、なるべく近場で漁をしたいと語った漁労長(船頭)の友利文男さん。ところが意に反して、最近は日本近海のカツオとビンナガ(びんちょうまぐろ)がとても減っているそうです。
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海の魚は上手に獲れば尽きない

代々漁業者で30年のキャリアを持つ漁労長の肌感覚で、当初の10分の1あるいは、20分の1ぐらいしか海に魚がいないとのこと。
日本近海のカツオだけ見れば30年前の100分の1やね」という言葉に驚がくしました。

なぜ、ここまで減ってしまったのでしょうか?

「獲り方をまちごうとるからよ。海の環境は陸(おか)に比べて変化せず暮らしやすいから、放っておけば魚は増えとる。でもさ、漁船をいっぱいにして帰ってきたほうが経営は楽だから。いま100万トン獲っている魚を50万トンに減らしても生活が成り立つなら(漁業の持続性は)大丈夫だけど、その仕組みがないから、みな苦しくて獲り過ぎるわけでさ」

毎日、海と向き合っている漁労長によると、魚の減少の最大の原因は乱獲ということ。世界中で多くの漁船が経営優先で小さな魚を山ほど獲ってきてしまうのが問題ということです。

「人間が手をかけへんかったらね、魚の回復力は、ものすごいよ。単純な話なんよ。」


漁法の違いを可視化したい

やっぱり巻き網漁が悪いのでは?……と、これまでの取材経験上、私は思ってしまったのですが、さらに聞くと、友利さんの視野は広い大海原全体に及んでいました。

「俺は、一本釣りが最高だとか、巻き網が最低だとか言うつもりはないんよ。巻き網は市場が大きいでしょ。皆さんがいろんな商売ができて世の中が回りやすい。要はバランスでね。一本釣りや巻き網、沿岸漁業や定置網も含めた全体で見て、人間が保護しながら獲れば(魚は)絶対すぐに回復するんよ」

確かに、日本人が好きな生食ほど魚のサイズや品質に左右されないペットフードやツナ缶などのビジネスには、コストの面でも、巻き網漁は欠かせないでしょう。用途が異なるということです。

以下に、友利さんに聞いた、巻き網と一本釣りの利点(〇)と欠点(X)をまとめました。
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巻き網漁
 状態の良い大きい魚を群れの中から大量に得られる(一網打尽だからおいしい魚もたくさん入る)から、獲れた魚を用途別に分けて一気にさばけて商売しやすい。

 網で巻くため魚が興奮して(体温が上がり)身焼けしてしまう。暴れて身が壊れる個体も多く、用途が限られていく。
また、網は海に入れたら上げるしかなく入った魚は獲ることになる(選べない)。
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一本釣り漁
 魚群を見つけて餌を投げると、群れの中でも食いつきの良い、捕食力のすごいもん(要するに健康な魚)が1番先に食ってくる。飛びついてきたのを一瞬であげるから、元気なまま冷凍できる。
また、要らない魚は、海に逃すことができる。

 大きい魚体の群れを広い海で探すのが大変。見つけても食いつかなければ、餌を海にほおっても無駄になる。探すのにも、良い魚を獲るのにも、とにかくコストがかかる。
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巻き網も獲り過ぎなければ良いわけですが、漁業者の収入を圧迫し続ける入漁料や燃料費や、豊漁の時にかかる重税などが、さらなる乱獲を招く。まさに友利さんがつぶやいた通り、「悪循環」です。

その結果、「良い魚だけを釣って、ちゃんと漁をして会社に貢献したい」と願う一本釣り漁業者が、「魚が小さいし、少なくて探すのも大変」という状況に追い込まれています。

これはやはり、1隻の漁船だけが頑張って何とかなるものでもなく、世の中の仕組みから変えなくてはなりません。そうなると、もっぱら海の上にいる漁業者の方たちというより、陸に暮らす私たち(消費者や企業や政治家など)の動きが重要になります。

元気に餌に食いついてくる新鮮でおいしいカツオを海に残すも残さないも私たち次第。一本釣りの魚のおいしさや、その価値を私たちが知って買い支えれば、状況は変わっていきそうです。

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株式会社永盛丸の一本釣り漁船「第8永盛丸」(写真:MSC/青木信之)

この連載の第2回でお伝えした通り、株式会社永盛丸は、友利さんが漁労長を務める一本釣り漁船「第8永盛丸」のほかに、巻き網漁船も1隻持っています。

巻き網でないと成り立たない産業もあり、巻き網がないと価格が上がる商品もあります。でも、必要性があるとはいえ、現場の漁業者は「一本釣りの魚と巻き網の魚の違い」を明確に分かっているわけです。

友利さんが「なんだカツオかぁ、ってなっちゃうと嫌やしね」と言うのは、ごもっともです。

苦労して釣ってきた魚が、明確に線引きされないまま、いろいろな漁法の魚と一緒にされて、結果として魚価も下がり、消費者には、その総体のイメージが「カツオの味」としてインプットされてしまう。

「うちの社長は、それをちゃんと分けたいからMSC認証を取ろうと思ったんだろう

という友利さんの言葉が、ストンと腹に落ちました。

連載第2回でご紹介した通り、株式会社永盛丸の荒川社長は、MSC認証を取る意欲はあったけれどコスト面で踏み切れずにいました。そのため、水産メーカー側からの申し出を「渡りに船」とばかりに前向きに捉え、石原水産とグループを組み、MSC認証の監査に協力しました


認証にあぐらをかかず「正々堂々と」

石原水産のオファーでMSC認証の監査を受け入れ、きちんと合格した第8永盛丸ですが、その漁労長の友利さんは、そこでホッとするというより、むしろ「兜の緒を締めた」ようです。

「資格を取った船はちゃんとしてほしいね。インチキするところがおったら腹立つからさ。抜き打ちでいいからチェックに来てほしいよ。え? ああ、俺は大丈夫よ。悪いは悪いで指摘してもらえたら、また直すし」

途中で入れた私の突っ込みをものともせず、

「正々堂々とやりたい。消費者に対しても、ちゃんと、これやで!って言えるから」

と言い切った漁労長。か、かっこいい!!!

今の日本の漁業者の苦しい経営状況では、がむしゃらに魚を獲らずに、船をいっぱいにせずに漁港に帰ってくることは、経営的には褒められない行為なのだそうです。だから、大きな魚体の群れに出会えなかった船は、小さな魚体の魚まで海からあげてしまう。

「だけど、俺、そういうことしないんで。小さいと(漁業が)やりにくいやん。かわいそうやし魚価にもならんし」

実際には、MSC認証の審査員は、認証取得後にちょくちょく漁船を訪れることはありません。年に1度のチェックはありますが、オブザーバーを乗船させる制度は今のところはなく、それを実現しようとすると、さらなるコストが加算されることになってしまいます。

それでも、友利さんの「(認証取得後も)緊張感、危機感を持って、本当に良い魚を消費者に届けるという意識でやらねば」という指摘は、非常に重要だと思いました。

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撮影中も名言を連発する友利さん。「神様のところで撮って。おれ『船頭!』って呼ばれるの嫌なんよね。フナダマさんが一番上だから。神様に守ってもらって安全に航海ができるので」。最高の笑顔をありがとうございました!

漁業は楽しい

漁船で50日もかかる航海は、体力的にも精神的にも楽なものではないはずです。でも漁労長は「ほんと釣っているのはすごい楽しいよ。こんなとんでもない仕事はなかなかないと思う」と笑います。

「ナブラ(魚が群れている時の水面の様子)はね、海面が真っ赤になることがあるのよ。武田信玄の騎馬戦みたいに勢いよく泳いでくる。そういう勢いのいい魚群を見つけたら、ひとナブラから3時間も4時間も釣りっぱなしよ。もう長靴の中に汗が半分ぐらい溜まるのよ。筋トレでダンベル上げるみたいに何回やったら終わるってできないからね。カツオを釣っている間は、最初の1匹から最後の1匹までぶっ続けで、泣いても騒いでも何しても、とにかく根性で、ずっと上げなあかんから。それだけカツオが来たときの漁にはすごい魅力がある。魚と一対一だから」

今は漁労長として指揮する側の友利さん、爪に血がにじむほどカツオを釣った当時を思い出して、話に熱がこもります。釣り終わった時には握力が無くなっているほどだったそうです。

漁船の倉庫がいっぱいになったら終わりですが、こんなダイナミックな仕事ができるのが、一本釣りなのです。

「でも海が豊かでないとね。乱獲は駄目やし、赤ちゃん(魚)でも駄目やし。一本釣りで餌を食うのは、群れの数%しかいないしさ」

漁労長は若手への思いも語ってくれました。

「自分はこれが天職と思ってる。これだけ魂を込めて頑張れる仕事だから、本当やったら若い子にも、これで飯が食える!と誇りを持って続けてほしい。体を動かしてパーンと儲けられたら恰好ええやん。波のゆりかごに揺られているうちに金になる。毎日、水平線から昇る朝日に感謝して沈む夕日に……世の中の人って、みんな仕事でそんな余裕ないやん。若い子にも本当にやらせてあげたい」
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では今回は、MSC取得後の漁労長の決意の言葉で締めます。

「本気で、いいのを売りたいんで、今まで以上に、ちゃんとええのはええ、悪いのは悪いって申告して、ちゃんと魚を売ろうと思っている」

次回は、そんな第8永盛丸が釣ってきた一本釣りカツオをMSCロゴ付きで販売しようと準備中の石原水産(今回のMSC漁業認証の取得者)のお話です。



               

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