【海洋ジャーナリスト瀬戸内千代の「もっと知りたい!MSC」】

~石原水産MSC認証取得! 記念連載その2(5回シリーズ)~

今回は、取引先メーカーの石原水産からの依頼で、実際にMSC認証の監査を受け入れた漁業者側のお話です。

同社のトレードマークを背に立つのは、「株式会社 永盛丸」代表取締役の荒川太一さんです。

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自社船「第8永盛丸」での荒川さん。無理を言ってポーズをとっていただきました(^^)

石原水産のMSC漁業認証では、株式会社永盛丸が所有し、運営管理している一本釣り漁船「第8永盛丸」が審査対象となりました。

審査を受けたのは、約1年前。その背景を、荒川さんに伺いました。

「MSCのことは、かなり前から知っていました。日本かつお・まぐろ漁業協同組合に所属する一本釣りのカツオ船が、何社かで一緒にMSC認証を取ろうという動きがあったので」

10年も前からMSCを意識していたそうですが、漁業者として、MSC漁業認証の取得に至らなかったのは何故でしょう?

「乗り気の何社かと協議しましたが、うまくまとまりませんでした。一本釣りなら、まず(認証は)取れる。取れないわけがない。でも、一本釣りの経営は10年も20年も前から楽ではないのです。どうにかこうにかやっているようなレベルだから、コストがどうしてもってことで……」

費用面が一番のネックだったわけですね。

「自分だけでは無理なので、しょうがないねってことで。だから、今回はいいチャンスだなと。こういうふうに話を進めてもらわないと、なかなかできないんですよ」

石原水産のような意欲的なメーカーのおかげで、国内の一本釣りカツオ・ビンナガのMSC漁業認証例が1つ増え、消費者としては嬉しい限りです。石原水産のMSC-CoC認証の取得と、MSCラベル付き商品の発売が待ち遠しいです。


海は一つ。資源管理は世界全体で


第8永盛丸は石原水産(水産メーカー)専属ではなく、魚市場のセリや相対(あいたい)で複数の業者と取引している、いわば、フリーランスの船です。年間約2000トン前後の水揚げがあり、そのうち約2割がビンナガで、あとはカツオです。

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ビンナガ(びん長マグロ)は「びん(ひれ)」が長いのが特徴。
出典:水産庁『図で見る日本の水産業』(平成21年9月)


ビンナガが2割程度にとどまるのは、漁場に回遊してくるのが春から夏と決まっていて、その時季しか獲れないから。

カツオ漁は通年可能ですが、「皆に喜ばれる質のものが上がってくるのを狙う」ため、第8永盛丸が釣るのは、脂がのって美味しい季節が中心です。

第8永盛丸が釣った魚は、鮮度を保つため船内で凍結され、缶詰めではなく、ほとんどが刺身やたたきとして流通しています。

「カツオは黒潮に乗って日本のほうに来ます。でも最近は水温が上がって、魚群が北に行き過ぎてしまう。そうなると、北方四島のほうには入れないから獲れないわけです。10年、20年前と比べると、漁場が北上していますね」

漁業者が肌で感じる海水温上昇による変化。なんだか恐ろしいようですが、地球温暖化が漁業にも影響を及ぼしているのは確実なようです。

日本近海の魚が減っているのは何故?という議論では、よく環境変化のせい?乱獲のせい?その両方?と、いろいろな意見が出ます。そのあたり、漁業者の実感としては、どうなのでしょう?

「巻き網漁のせいだと言う人が多いです。我々は、そんなに思っていないけど」と荒川さん。

実は株式会社永盛丸は、一本釣り漁船1隻のほかに、巻き網漁船も1隻持っています。一網打尽というイメージで語られやすい巻き網ですが、良い悪いの二択で割り切れるほど単純ではないようです。そのあたりを漁労長にお聞きしたお話は、次回ご紹介します。

国内のMSC認証カツオ・ビンナガ一本釣りの先例である明豊漁業も両漁法を併用していますが、石原水産(永盛丸)と同じく、MSC認証を得たのは一本釣りの漁業のみです。

この日、永盛丸社長の荒川さんと、石原水産営業部長の吉永さん(前回ご登場)は、現状のMSCの課題も指摘しました。

「大量にカツオやビンナガを水揚げしている海外の巻き網漁船にMSC認証を与えているのは、いかがなものか」という問題提起です。

MSC日本事務所の漁業担当・鈴木さんに確認してみると、同様の質問が時々あるそうです。問題視される漁業が認証を得られたのは何故なのでしょうか?

「MSC漁業認証の審査は、資源の持続可能性、生態系への影響、管理システムという3原則に則って厳格な審査を行います。たとえ漁獲量が多い漁業でも、資源が十分に豊富で管理が行き届いていれば認証を取得することができます。もちろん、漁獲量が多い漁業はより予防的に審査する必要がありますから、それだけ高いハードルを乗り越えて認証に至っていると思います」
釣りばり
第8永盛丸で使用されている一本釣り竿の釣り針

当社は永盛丸さんと、一本釣り漁業で認証を得ました。漁法としたら、これ以上はない、環境や資源にやさしい漁業だと思っています。ただ、全カツオ資源量が保たれていないと、認証は継続できません。世界的に見るとカツオを刺身で食べている文化は非常に少なく、ほとんどが缶詰めです。そちらの巨大なマーケットの資源コントロールによって、一本釣りの認証がつぶされてしまうようなことがあったら非常に残念です」

こう語る石原水産の吉永さんの懸念は、世界の一本釣り関係者に共通のものなのかもしれません。カツオ好きのいち消費者としても、カツオ資源の健全な存続を願わずにはいられません。
吉永さん
石原水産・吉永さん

MSCに限らず、多くの方々の参加で認証制度の内容をブラッシュアップしていくことが求められています。また、荒川さんと吉永さんのお話を伺って、関係国の法規制や資金の流れ、国際組織や漁業団体のルールなど、複数の仕組みが足並みをそろえて、一緒に「海の幸を未来につなぐ」という共通の目標を見据える必要があると感じました。

今回は巻き網の話に触れましたが、いま流通しているMSC認証付きのカツオ・ビンナガは、国産であれば、すべて一本釣りです。

株式会社永盛丸の漁労部長の柴崎晃一さんは、「水産物は、まだまだ野菜などに比べると生産者の顔が見えません。MSC認証は、ブランド力とはまた別でしょうけれど、きちんと第三者に認められて、管理されている製品だと伝えることができる。同じものが並んでいれば、当然、そういうもののほうがいいですよね」と語りました。

株式会社永盛丸の「漁労部長」は、陸(おか)で船員の手配などをしている役職だそうです。
次回は、第8永盛丸で、船上の業務の一切を取り仕切っている「漁労長(船頭)」に伺った現場のお話です。



               

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