【海洋ジャーナリスト瀬戸内千代の「もっと知りたい!MSC」】


前編からの続きです・・後編では、ユーグレナ社本社でうかがったお話をレポートします!

ミドリムシとクロレラで認証取得

ユーグレナ社とユーグレナグループの八重山殖産社は、今回ミドリムシとヤエヤマクロレラ(ミドリムシと同じく淡水性藻類)の養殖業について、ASC認証を取得しました。

いずれも、沖縄の石垣島にある八重山殖産の養殖施設で生産しています。ユーグレナ社の出雲社長が実験段階でお世話になった会社で、クロレラの生産者でしたが、2013年からはユーグレナグループに入り、ミドリムシも育てています。

ASCのロゴが使われるといっても、海藻(藻類)規準はMSCとASCの共通のものですから、どのような審査だったのか気になります。

そこで、ユーグレナ本社にお邪魔して、お話を伺ってきました。1年前に移転したばかりの新オフィスは東京・田町にあり、白と緑を基調としたオープンでさわやかな空間※でした。

取材に応じてくださったのは、研究開発部で品質保証を担当されている係長の金山浩輝(かなやま・ひろき)さんです。
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「人と地球を健康にする」は、ユーグレナ社の経営理念です。ちなみに、社のスローガンでは、「ミドリムシが地球を救う」と潔く言い切っています

社屋でお見かけした出雲充(いずも・みつる)社長は、この日もトレードマークの緑色のネクタイを締めていらっしゃいました。社長も金山さんもですが、若い方の活躍が目立ちます。それもそのはず、約200人のユーグレナ社従業員の平均年齢は30代半ばなのだそうです。

まず、ユーグレナが社名にするほど惚れ込んでいるミドリムシの魅力をお聞きしました。

「本当に可能性がいろいろあるんです。59種類もの栄養素を含み、飲むと足りていないところを補ってくれます。パラミロンという多孔質の独自成分がスッキリに役立つなど、機能性研究でも、さまざまな良いデータが得られています。食品の枠を超えて、化粧品や燃料のもとにもなりますし、ひとつにくくれないような、ほかに類を見ないオンリーワンの原料!というところが魅力だと思います」

ユーグレナ社が、いち早くASC認証を取得した背景には、2020年に控えた東京オリンピック・パラリンピックがあります。MSCとASCは、五輪会場や選手村などでの水産物の調達基準に記載されている国際認証制度。持続可能な五輪の運営を実現するため、2016年のリオ大会でも、水産物の75%にMSC認証かASC認証を受けた食材が選ばれました。

「社長の出雲が認証取得に関心を持ち、ロンドン出張の際にMSCの本部に伺ったんです。それで、『世界初の藻類認証を取ってくれ』という指令が私の部署にきました。海藻認証の規準が策定されたタイミングでした」


海藻認証の多岐にわたる審査内容

ミドリムシの有用性は古くから知られていましたが、ユーグレナ社の偉業は、2005年に世界で初めて食用屋外大量培養に成功したことです。

単細胞生物なので環境が良ければ2個体に分裂し、だいたい半日~1日に2倍のカウントで増えるそうです。

ユーグレナ社のミドリムシの養殖方法の詳細技術は企業秘密。審査も守秘義務契約のもとで進んだということですが、もちろん審査対象は技術面ではなく、環境面と社会面です。

前例がなかった「ASC-MSCの海藻(藻類)認証」の審査は、どのような状況だったのでしょうか。審査を行う認証機関は第三者であるため、金山さんに様子を教えていただきました。

「審査員が生産拠点である石垣島にきて、2日ほどかけて多くの項目を確認していきました。初めてのASC-MSC共同審査ということで、どちらかだけが気にするポイントというのもあって、その両方に対応するという場面もありました」

共同策定の審査規準ならではダブルチェック。少し大変そうですが、それだけ厳しくチェックされていると、買うほうとしては安心です。

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審査は抜き打ちではなく事前に決まった日程で行われ、事前にたくさんの資料を提出したそうです。この資料づくりにも、やや手間取ったそうです。

「例えば、水の出入りに問題がないことを示す必要がありました。いつも排水そのものは検査していますが、排水の量や水質に加え、海に流出した後の安全性まで示す必要がありました。評価方法が分からず、社外の海洋環境の専門家に依頼することになりました」

ユーグレナ社のミドリムシとクロレラの養殖は石垣島で行われるということもあり、施設の近くに海岸があります。そこで生産時と非生産時に海水をくんで、無害を証明したそうです。排水をいったん貯めている調整池の審査もあったそうです。

「(ここまで見るのは)すごいと思いました。徹底していますよね」と金山さん。

また、「ASC-MSC海藻(藻類)認証」の審査では、ASCの審査と同様に、社会面にもチェックが入ります。

悪臭や騒音で近隣に影響を与えていないか、従業員を危険な場所で働かせていないか、シフトの具合など働き方に問題はないか、現地で暮らせる最低賃金以上の給料を出しているか。

さらには、18歳以下の労働者はいないか(児童労働の防止)、強制労働をさせていないか(労働搾取の防止)など、グローバル基準の労働環境についても確認されます。

日本だけを見れば不思議に思えるような項目でも、グローバルな商品として打ち出す場合には、潔白を証明する必要があるわけです。

そして、審査員がランダムにピックアップした従業員を上司抜きでインタビューするヒアリングもあったそうです。この「上司抜き」がポイントですね!

以上、敢えて「大変だったこと」にフォーカスしてお聞きしたのですが、もともとの国際認証の審査の厳しさに加えて、MSCとASCが初めて共同策定した認証を世界で初めて取得した先駆者ならではのご苦労も感じました。

緑のジェットが空を飛ぶ日

石垣産ユーグレナ(ミドリムシ)はサプリメントやドリンク、化粧品などに使われています。そのほか、抽出したオイル(バイオディーゼル燃料)で、数年間、いすゞ自動車とタッグを組んでバスを走らせた実績があり、2019年の夏には、ディーゼル燃料の供給を本格的に開始するそうです。

ユーグレナ社は、2018年11月に横浜市やANAホールディングスなど5社と共に「GREEN OIL JAPAN」を宣言し、「2025年には年産25万キロリットルのバイオ燃料の生産を目指す」としています。

航空機は二酸化炭素の大きな排出源ですから、カーボンニュートラル(ミドリムシは成育過程で大気中の二酸化炭素を取り込むので、そのオイルを燃やしても石油よりも二酸化炭素の収支は合う)なバイオ燃料による飛行には、環境面でとても意義があります。海外ではすでに約15万回の有償フライトが実現しています。

上記の宣言で掲げられたのは、バイオ燃料※で「2020年にお客様を乗せてフライトを実現する」という目標。すぐそこの年限です。
※バイオ燃料は混合比率が決められているため、ユーグレナオイル100%で飛ぶわけではありません

ユーグレナ社は、その名の通り、ミドリムシを中心に事業を展開しています。ミドリムシの能力を最大限に活用しようと本気で動いている若き研究者集団。そんな印象でした。
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ユーグレナ本社にある看板

出雲社長の起業のきっかけは学生時代に訪れたバングラデシュ。そこで出会った栄養失調の子どもたちが元気になれるような食べ物はないかと探していて見つけたのが、動物の栄養も植物の栄養も兼ね備えた、粉末にすれば冷蔵庫がない村でも保存できるミドリムシだったということです。

起業の発端から、環境だけでなく、社会にも良いものを志向していたからこそ、海藻(藻類)認証のコンセプトに共感されたのだろうと納得しました。

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 ユーグレナ本社の商品見本の棚

ASC認証を取得した石垣産ユーグレナ(ミドリムシ)を使った商品の一部は、スーパーマーケットやコンビニ、ドラッグストアなどに並んでいます。

まだ、どの商品にロゴを表示するかは検討中ということで、今お店に行っても「ASCロゴ」入りのユーグレナ商品は見つかりませんが、そのうちサプリにも化粧品にも、もしかしたら、飛行機にも!認証ロゴが輝くはずです。

その時にはきっと、機体全体が、出雲社長のネクタイと同じユーグレナ・グリーンに染め上げられるのではないでしょうか……。そんな勝手な想像を楽しみつつ、実現を待ちたいと思います。