【海洋ジャーナリスト瀬戸内千代の「もっと知りたい!MSC」】

前編に続き、11月1日に開催された「東京サステナブルシーフード・シンポジウム」について、石井さん登壇の分科会を中心にレポートします。

天然魚の12%がMSC


石井さんのプレゼンタイムには、MSC認証の広がりを示す10月18日時点のデータが示されました。

MSC認証には漁業認証とCoC認証という2つの認証があります。

まず、MSCの漁業認証は、世界で359漁業、年間960万トンに達し、世界の天然魚の漁獲量の12%を占めています。
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日本では認証済みが3漁業でうち1漁業は認証停止中。本審査に入っている漁業が2つ。それから、15都道府県の50魚種の漁業が予備審査中または完了となっています。
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ついにセブン&アイも!


MSCのCoC認証は、世界で4000を超える企業が取得。ウォルマートが北米の店舗で販売する水産物をサステナブルなものに切り替えると発表した2006年あたりから急激に増えたそうです。

最近の傾向として、MSC「海のエコラベル」付き製品が北欧州から南欧州に広がり、アジアでも増えています。

日本でも2年前ぐらいからCoC認証を取得する企業が急増し、現在192企業、もう少しで200社です。

この1年で国内のMSC「海のエコラベル」付き製品数が1.3倍になり、イオン、日本生活協同組合連合会、コープデリ連合会、IKEA、ライフ、マルエツ、ベイシア、コストコ、オイシックス・ラ・大地などで買えるようになりました。
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まずは明太子からイトーヨーカドーやヨークベニマルに並べ、12月からはコンビニのセブンイレブンでも発売するというから、MSC「海のエコラベル」が目に留まる頻度が一気に増えそうです!

MSC・ASC認証品の社員食堂での提供も、パナソニックが3月より開始し、社員食堂や給食に関連する企業のCoC認証取得も相次いでいるとのこと。

以下は、時間切れのため当日は早送りされたスライドです。着々と製品数が増えてきています。
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ASCの山本さんからも、「新たにスズキ・タイの規準ができて、国内のマダイ養殖も認証できるようになった」という朗報が。
ASCジャパンは2017年に設置されたばかりですが、すでに日本のASC認証済みの養殖場の数は、世界4位に食い込んでいるそうです。



地域の個性をどう生かすか


登壇した4つのスキーム(前編参照)のうち、3つがグローバル認証で、ASMIが提供するアラスカRFM認証のみローカル認証でした。

花岡さんが両者の違いを問うと、ASMIのスーザンさんは「私たちは生産地を誇りに思っており、生産地に焦点を当てた地域ベースのプログラムを持つことが理に適っていたのです。MSCは認知度が高いのが強みですが、MSC「海のエコラベル」だけでは産地が分かりません。だから私たちは、ローカルのRFMとグローバルのMSC、二重の認証を受けています」と答えました。

アラスカの地で何世代も家族単位の漁業を経営してきたプライドが育んだローカル認証。ここで花岡さんは、「日本と一致する考え方では?」と言って、2018年9月にGSSIに申請したばかりのマリン・エコラベル・ジャパン(MEL)の田村さんを壇上に招きました。

「2016年10月にマリンエコラベル協議会として生まれ変わった日本発の水産認証MELは、日本特有の生物的、社会経済的、文化的な多様性を規格に盛り込むチャレンジングなことをしています。(中略)GSSIの審査が10月から始まり、ご指導をいただきながら、主張すべきところは主張しつつ内容を改善しているところです」(田村さん)

花岡さんはMELのチャレンジを歓迎し、日本のサステナブルシーフードの新展開に期待を込めました。


日本の水産改革、MSCやASCへの影響は?


最後に、国内で水産エコラベルの普及に努めるMSCの石井さんとASCの山本さんが、政府主導の「水産改革」への思いを語りました。

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「漁業をMSY(最大持続生産量)ベースの管理に変えていく、そして、資源が減った時に漁獲調整するルールを導入するということで(期待できます)。やはり、今までこの2つが無かったことが、日本の漁業がMSC認証を取れない大きな理由だったんです。今後の改革でMSYベースの管理が本当に実施されれば、当然、資源状態が良いことが大前提ですが、MSCを目指す漁業にとっても一つの追い風になると思っています」(石井さん)

「資源管理に関する改革事項が多いと思いますが、養殖も沿岸漁業と同じような地域で行われていますし、餌には周囲で獲れたものが使われています。やはり餌の資源管理がはっきりしないためにASCの規準に不適合となってしまう場合が多かったので、今回の改革はダイレクトに養殖に関わります。もう一つ、戸倉のカキ養殖のASC認証取得が地域活性化につながったように、認証や持続可能性を追究する上で、若い世代の取り込みによって盛り上がりを見せることもありますから、すごく期待しています」(山本さん)

今まさに、国会で水産改革が議論されています。賛否両論あったとしても、問われるべきは「中身」です。海外の課題と思われがちなIUU漁業が実は身近にある(海外の違法・無報告漁業による国内イカ産業の損失は約3割、金額にして460億円)!という研究報告だけを見ても、早急に改革(新たなルールづくり)が必要なことは明白です。

トレーサビリティーが徹底されないと、私たちも毎日の買い物で、無意識のまま国内外のIUU漁業に加担してしまいます。MSC「海のエコラベル」も、トレーサビリティを「見える化」してくれる便利なツールの一つです。

来年の今ごろは、どんなサステナブル・シーフードが店頭に並んでいるでしょうか。もっと国産が選べるようになっているのでしょうか。600人以上が交流した今回の一大イベントから広がる、数々の取り組みの発展が楽しみです。

オリンピック・パラリンピックの東京誘致決定を受けて始まった「東京サステナブルシーフード・シンポジウム」も、いよいよ来年が五輪前ラストの開催となります。2019年の秋が近付いてきたら要チェックですよ!

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瀬戸内 千代 (せとうち・ちよ)
海洋ジャーナリスト。雑誌「オルタナ」編集委員、ウェブマガジン「greenz」シニアライター。1997年筑波大学生物学類卒業後、理科実験器具メーカー、出版社等を経て2007年に独立。東京都市大学環境学部編著『BLUE
EARTH COLLEGE ようこそ、「地球経済大学」へ。』(2015年、東急エージェンシー)、笹川平和財団海洋政策研究所編『海洋白書2018』の編集に協力。任意団体「海の生き物を守る会」、特定非営利活動法人OWSなど海のNPOの機関誌編集も継続中。趣味は旅と磯遊び。