【フードライター浅野陽子の『海のエコラベル』現場より生中継!】
先月、MSCのグローバルアンバサダー・バートさんが来日し、日本人シェフとディナーイベントを行いました。(「シェフ4人のサステナブル晩餐会@原宿『eatrip』」

コラボした日本のシェフは「Chefs for the Blue(以下『CFB』/海の未来を考える料理人集団)」のメンバーです。

今回はそのCFBの一員であり、渋谷のフレンチ「LATURE(ラチュレ)」の室田拓人シェフへのインタビューをお届けします。
室田シェフの考える「サステナブルな未来」や、MSCへの思いを伺いました。
IMG_7325
【室田拓人(むろた・たくと)シェフ】
1982年生、千葉県出身。10代で食べた「ブータン・ノワール」に衝撃を受け、フレンチの道に進むことを決意。日本のフランス料理界の重鎮・吉野建シェフの店「タテルヨシノ」等で修行を積む。渋谷の人気フレンチ「deco」のシェフに就任し、ジビエ料理の名店として評判になる。
2016年にオーナーシェフとして「LATURE(ラチュレ)」を開業する。オープン後、わずか1年3カ月でミシュランガイド東京2018で一つ星を獲得。


室田シェフの“海の未来を考えたひと皿”は「アワビのパイ包み焼き」

IMG_7333
お店は、渋谷の青山学院の目の前にあります。地下への階段を降りた先が入り口。
IMG_5498 のコピー
自然を感じる、温かみのある内観。本日はお忙しいところありがとうございます!
IMG_7305
到着していきなりですが、室田シェフの考える「海の未来を考えるひと皿」を作っていただきました。「アワビのショーソン(パイ包み焼き) トリュフと焦がしバターのソース」です。

アワビは島根産。まだMSC認証は取得していないですが、漁獲量や漁の時期をきちんと守り、個人で資源管理への高い意識を持っている漁業者さんのものです。
IMG_7307
肉厚で歯ごたえのあるアワビと、さくさくの軽いパイの食感、トリュフとバターの香ばしさ。複雑な風味がいくつも重なり、なんとも言えない贅沢なおいしさです。

主役のアワビは2時間半かけてじっくり低温調理。ホタテ貝とあおさ海苔のムースでおおい、アクセントに鹿肉のチョリソーを入れて、パイ生地で包み焼きにしたメイン料理です。
IMG_7265
芸術作品のような料理に圧倒されつつ、室田シェフが、海の資源やMSCに興味を持ったきっかけや、CFBでの活動、未来への思いを伺いました。


おいしい料理に「個性」と「驚き」を提供するのが使命

ーー店名の「ラチュレ」とは「自然のしずく」の意味だそうですが、内観やテーブルセッティングも含め、自然との共生を目指されているのでしょうか?
IMG_7288
画像:季節の移り変わりを表現したテーブルセッティング。来店のたびに驚きがある。

はい、現代人が忘れがちな自然への敬意と感謝の思いを、店や料理に込めています。

当店では10,000円と14,000円のディナーコースをお出ししています。この価格帯の店では料理がおいしいのは当然で、お客さまはさらなる驚きや新しさを期待して来店されます。

僕はうちの個性として「自然との共生」と「社会的な意味を持つ料理」をテーマにしています。

動物を悪者にせず、おいしく食べて循環させる

ーーシェフが得意な「ジビエ料理」もその一環でしょうか?
ジビエは味の面から見ても、特に冬はおいしいんです。しかしなにより、社会問題になっている、農作物の膨大な被害を抑えたいという気持ちで始めました。
IMG_7254
画像:ドライフラワーで作ったオブジェ。店内の至る場所に「自然との共生」を見つけられる。

テレビでもよく取り上げられますが、日本では農家さんが大事に育てた農作物が、鹿やイノシシ、熊によって大量に食い荒らされている。被害総額は年間200億円と言われています。

しかし、この問題を作り出したのは、もともとは人間なのです。自分たちの都合で木や山を壊し、住みかを失った動物が街に出てきてしまったことで、被害が起きています。

彼らを悪者として扱うのではなく、おいしく食べて減らしたら、社会も自然環境もうまく循環するのでは、という思いでやっています。

料理人から見た「食材としての魚」は激減している

IMG_7264
ーー素晴らしいですね。CFBの活動も、その延長で取り組まれているのでしょうか?
僕は現在36歳ですが、20代の駆け出しの頃より、確実に食材としての魚は減りました。量も種類も少なくなり、逆に価格は1.5倍〜2倍くらいに跳ね上がったものも一部あります。

ここ5年くらい「なにかおかしいな」と思い続け、違和感を感じていたときにCFBが発足して。シェフ同士が集まって勉強会をしたり、発信もできると聞き、参加しました。

同業のシェフたちも同じ危機感を持っていた

ーーCFBに参加されて、ご自身の変化や、感じられたことはありますか?
同業のシェフたちも同じ危機感を抱いていたんだ、とあらためて実感しました。

CFB参加後は、僕たち料理人が団結して声を上げるなど、できることは少しでもやらなければいけないと強く思うようになりました。

その発信を聞いた方が、お店で我々の作った魚料理を食べてくださったり、店には来られなくても、スーパーでMSC認証の魚を選んだら、それは一つの進歩ですよね。
IMG_6526
画像:今年3月、MSCグローバルアンバサダーのバートシェフ(中央)とコラボした室田シェフ

また、先月のMSCとのコラボイベントでは、バートシェフに世界の状況を聞きました。オランダでは魚が減っている状況について、国民が無関心だったのが、10年で激変したそうです(くわしくはこちらの過去記事に)

僕たち料理人が、どんどん訴えていくことが大事なのだと気づきました。なんとなく「これではまずい」と感じているいまの日本でも、誰かが発信し続ければ、同じように変われるのではと信じています。

「ガストロノミーとサステナブルの両立」の難しさ

ーーいまMSCの話が出ましたが、日本のMSCについて、感じられることはありますか?
MSC認証の魚は使っていきたいです。ただ、前回の記事で佐々木さんも言っていましたが、僕は「日本の海で獲れた魚で、フレッシュ(生)のもの」を使いたいので、国産のMSC認証の魚をもっと増やして欲しいと、切に願っています。

いまは日本のMSC認証は3つしかないですよね。先ほどお話した、決して安くはないメニュー代金をいただくガストロノミーの店では、お客さまに驚きやめずらしさをご提供する必要があり、魚種にバラエティがないと、どうしても難しいのです。
IMG_7269
画像:フランスの権威あるレストラン格付け本「ゴー・ミヨ」からも認定された

海外のMSC認証の魚は種類が多く、高品質だとは思いますが、日本で入手すると冷凍品になります。冷凍技術が進化した現在でも、解凍するとドリップが出て、水分やうまみが抜けてしまう。「フレッシュが基本」のガストロノミーの世界では、使いづらいというジレンマがあります。

室田シェフの考える打開策

ーーしかし日本で、短期間でMSCの魚種を増やすのはハードルが高いですよね。室田シェフが考える打開策はありますでしょうか?
MSC認証はまだ取っていないけれど、海の資源管理に取り組んでいる小規模の漁業者さんをMSCさんに見つけてもらい、シェフとつないでいただけれけば、少しでも変わるのではないでしょうか?

ーーMSC認証と美食の世界の共存は、一気には進みづらいんですね。
海の未来のためにできることをしたい、というシェフは確実にいます。しかし、使用する食材を100%MSC認証のものに切り替えるのは、難しいのではと思います。
IMG_7250
しかし、フレンチならコース料理のうち1品、寿司店なら10カンのうち1カンでも、MSC認証や、環境に配慮して獲られた魚を使うことは、可能かもしれません。

このような「少しずつでも取り組んでいる例」が認められれば、料理人の輪もきっと広がります。社会での認知度も上がり、将来的にはMSC認証を取る漁業者も増えるのではないでしょうか。

子供たちに伝えれば、大人も変わる

ーーCFBや未来の海のための活動について、今後の具体的な目標はありますか?
CFBについては、営業後の深夜に活動しているので体力的に厳しい面もありますが(笑)、引き続き参加し、自分の店でも資源と環境に配慮した食材を探し、料理を作り続けていきます。

また、うちの店の住所は渋谷区ですが、区が運営する「渋谷区こどもテーブル」という小学生向けの食育クラスに、協力する予定です。

07
画像:渋谷区の行う食育プログラム「渋谷区こどもテーブル

渋谷区こどもテーブルでは、食に関するさまざまなテーマがありますが、僕は「サステナブル」の概念を伝える授業をしていきたいと思っています。子供たちが家に帰ってお母さんに話せば、スーパーで晩ごはんのおかずに、MSC食材を買ってくれるかもしれないですよね?

店の営業外でも、社会的に意味のあることを続けていきたい。料理人として僕自身ができることに、常に挑戦していきたいと思っています。

MSCで料理教室をやることになったら、全面協力させていただきます!!

ーーぜひよろしくお願いします!室田シェフ、今日はお忙しいところ本当にありがとうございました!
IMG_7241

「LATURE(ラチュレ)」

東京メトロ「表参道」駅徒歩7分
JR・地下鉄「渋谷」駅 徒歩13分
東京都渋谷区渋谷区2-2-2
03-6450-5297
ランチ11:30〜13:30L.O./ディナー18:00〜20:30L.O.
日曜・祝祭日定休(毎月1回のみ日曜営業実施)
http://www.deco-hygge.com/deco/

***********************
Writer:浅野陽子 Yoko Asano
浅野プロフィール_small
フードライター&エディター。『dancyu』『おとなの週末』『ELLE a table』『日経レストラン』など料理専門誌に多数執筆し、“食”限定の取材歴19年。
2015年にMSC日本事務所の初代アンバサダーに就任し、現在はMSC日本事務所のブログの公式ライターを務め、国内の漁港、飲食店、小売企業などを取材している。個人ブログ「フードライター浅野陽子の美食の便利帖」も更新中。
***********************