【海洋ジャーナリスト瀬戸内千代の「もっと知りたい!MSC」】
seaweed01
MSC(海洋管理協議会)とASC(水産養殖管理協議会)は2017年の秋、初めて共通の審査規準「海藻規準」を発表しました。海洋生態系における海藻の果たす役割が認識される一方、世界的に海藻生産が急速に伸びており、持続可能で社会的に責任ある海藻生産の認証制度を求める声が高まっていたことが背景にあるようです。

今回は、このできたての「海藻規準」について、MSC日本事務所・漁業担当マネージャーの鈴木允さん(上の写真右)と、ASCジャパン・ジェネラルマネージャーの山本光治さん(同左)にお話を聞いてきました。

2年かけて共通規準を完成

MSCが天然の水産物、ASCが養殖の水産物と対象が分かれているため、これまで両者共通の規準は存在しませんでした。では、どうして今回、MSCとASCが協働で海藻規準を作成することになったのでしょうか?

その背景としてお二人が語ったのは、「天然と養殖を明確に分けられないケースもある」という話です。

MSCは1つの規準、ASCは魚種ごとの規準※に沿って、認証機関の審査員が認証規準への適合について審査しています。
※ASCは今後、規準の構成を変更予定。全魚種共通のコア規準と魚種別の付属文書、そして飼料規準を準備中です

しかし、例えば垂下(すいか)式で給餌せずに育てる二枚貝は、MSCとASCの両方の範囲に含まれています。結果として、北海道のホタテはMSC、宮城県・戸倉のカキはASCを取得しているのです。
北海道ホタテガイ漁業 垂下式
(写真提供:北海道漁連) ※垂下式漁業についてはこちら

「(このようなケースは)生産者が申請先を選べる一方で、マーケットでは少々混乱を招いていました。海藻もやっぱりASCとMSCにかぶる部分がかなりあるので、規準づくりの話が出始めた2015年頃から、別々にやるより一緒にやろうとなったわけです」(鈴木さん)

こうしてMSCとASCは、2016年3月に最初の規準草案を発表し、公開協議にかけました。そしてMSCとASCの規準作成チームの来日、11月の中国とインドネシアでのワークショップ、翌年3月の海藻規準案に対する第2回公開協議、中国での現地視察、4月の日本のステークホルダー向けワークショップ、パブコメなどを経て、2年以上をかけて海藻規準を完成させました。
seaweed02
ⓒMakoto Suzuki / MSC Japan
2016年3月に両認証の規準作成担当者が欧州から来日。約1週間かけて、国内のノリ、ワカメ、アカモク、モズク、海ブドウの生産現場を視察しました。右端が鈴木さん

規準(英:Standard)は「規」の字を使っていますが基準と似たような意味で、その分厚い冊子には認証を取得するための要求事項がずらりと並んでいます。海藻規準の場合、漁業者・養殖業者が認証を得るには最大で33項目の業績評価指標に適合している必要があります。

日本は海藻の一大消費国

ASCとMSCの海藻規準の対象には、ヒジキやワカメなど海藻全般に加え、実は、単細胞の微細藻類や淡水藻まで含まれます。つまり、サプリメントなどに使われているミドリムシやスピルリナ、クロレラや、さらにはバイオエネルギーのために培養される石油を産出する藻なども認証可能になったわけです。

そもそも、欧米に大型海藻を食べる習慣はほとんどなく、多くの海藻は化粧品やサプリメント、医薬品、添加物や肥料などの原料になっています。海藻を食べる文化はアジアが中心。だからこそ鈴木さんは、海藻規準策定の話が出た時から規準作成チームに「とにかく日本の海藻生産の現場を見にきてください!」と何度も要望して、上の写真の日本視察を実現させたのでした。

「天然も養殖も、これだけいろいろな海藻を食べている国は日本と韓国ぐらいなんですよ。天然の海藻もものすごく多い。地域ごとに非常に豊かな海藻の文化があります」(鈴木さん)

確かに、料理に青のりをかけたり、ワカメの味噌汁と海苔でまいた御飯を食べたり、海藻は毎日のように食卓に上っています。これって、世界的に見れば珍しいのですね。
seaweed03
(2017年4月のワークショップの資料より)

海藻は33カ国で生産され、その総量は世界の水産物の15%を占めています。天然の海藻採取は生産の4%で、ほとんどは養殖です。

世界の海藻生産量を見ると食用が約半分を占めるのですが、その分布はアジア太平洋地域、特に中国に大きく偏っています。中国は世界の海藻の54%を生産し、例えばワカメは、ほとんど日本に輸出しているそうです。

金額ベースの海藻輸入量(原料向け含む)では、日本は、約10倍の人口を抱える中国に次ぐ世界2位。日本が海藻の一大消費国であることは間違いないようです。

認証ラベル付き海藻のお目見えは約1年後

完成した海藻規準が正式に「発効」するのは2018年3月の見込み。その後、審査が可能になり、店頭でMSC・ASCラベル入りの海藻商品が買えるようになるのは、2018年末あたりが見込まれます。

認証品には、天然ならMSC、養殖ならASCのラベルが表示されます。新しいのは、天然の海藻に依存しつつ一部は人為的に増やすような海藻には、ラベルが2つとも表示されること。MSCとASCのダブルラベル商品、早く見てみたいです。
海藻規準MSC・ASCラベル表

海藻認証もCoC認証(MSCとASCはCoC認証の規準を共用)も有効期限は3年なので、近いうちに認証を取得したら、認証の更新時期の前に五輪が日本で開催されることになります。
※ASCの養殖業認証はもともと3年、MSCの漁業認証は5年です

そういえば昨年末、イオンがついに日本のソウルフードである「おにぎり」にMSC認証の鮭やたらこを使うようになりましたが、あいにく海苔の認証品は、まだ存在していません。

「海藻は国内ではなじみの深い食品。本来ならもっと早く規準づくりに取り組むべきだったと思うぐらい、日本の食文化にとって大事」と山本さんが言う通り、例えば昆布は和食に欠かせない出汁の原料ですし、その佃煮はおにぎりの人気の具材でもあります。
seaweed04
ⓒMakoto Suzuki / MSC Japan

海藻規準ができたので、東京五輪の時には、例えば、国産有機米とMSC・ASC認証の具材と認証海苔を使った丸ごとサステナブルなおにぎり商品でゲストを迎えることも可能でしょう。世界中の人にひと目で安心を提供できる国際認証ラベルの広がりが楽しみです。

海藻生産の問題点とは

養殖場を認証するASCは、経営者の責任など社会面も審査します。そして、今回できた海藻規準も、ASCのように社会面までカバーする内容。天然個体群の資源量や周辺の自然環境に配慮するMSCの基本3原則に加えて、「原則4:社会的責任」と「原則5:コミュニティとの関係と相互作用」で、労働者を公平に扱うことや、地域コミュ二ティーと良好な関係を維持することなどを生産者に求めています。
seaweed05
ⓒistock.com / kerriekerr

では具体的に、海藻生産の現場には、どんな課題があるのでしょうか?

まず、天然海藻の課題を、日本の漁村に住み込んだ経験があり、国内外の海藻生産の現場も視察したMSCの鈴木さんに聞きました。

「海藻は、海の環境の中で非常に重要な役割を果たしています。大気中の二酸化炭素を吸収して酸素に変えたり、魚の隠れ場所や産卵場や稚魚の育つ場所になったりして、『海のゆりかご』とも呼ばれています。だから『次の世代に藻場をちゃんと残せるように管理している海藻を選ぼう』という意識が大切です」

ただし海藻の減少には、「とり過ぎだけでなく気候や水温の変化も関係しています」と鈴木さん。藻場は、地球上の75%もの炭素固定や水質浄化、海岸侵食の防止にも役立っている大切な生態系なのに、沿岸の海藻が激減する「磯焼け」は世界で頻発しています。

鈴木さんは、少子高齢化が進む中、日本の漁村で増えつつある外国人労働者の待遇面にも言及しました。確かに、数年前から改善が叫ばれている外国人技能実習制度の労働条件は今も問題があるようです※。
※法改正され改善策が進んでいますが、相変わらず実態は厳しいようです(参照:各種ニュースサイトの「外国人技能実習生」関連報道)

次に、海藻養殖の課題を、東南アジアの養殖現場を数カ月かけて巡ったというASCの山本さんに聞きました。
seaweed06
左からASCの山本さん、MSCの鈴木さん

「海藻養殖の中には、比較的手軽に始められるものもあります。東南アジアの離島ではペットボトルを浮きにして、ひもに海藻をくくりつけて、見よう見まねで始める方も多く、地域によっては複数の零細業者が養殖場を湾いっぱいに広げて航路を妨げたり、海藻の病気を招いたりして、社会・環境問題に発展していました」

零細でも数が多いと、その影響は無視できません。過密養殖による生育不良や病気に加え、化学肥料投与の疑いまで知った山本さんは、小規模の現場にも海藻規準を広げたいと考えています。ASCとMSCの規準が養殖技術の向上や複雑なサプライチェーンの透明化に役立ち、ひいては、より良質な海藻と彼らの収入増につながると信じているからです。

零細だと国際認証は取りづらい印象がありますが、ASCは2018年中に「グループ認証」という新たなツールを発表予定。この枠組みを使えば、漁協やグループ単位で申請できて、取得までのコスト削減や、取得後のグループ内の情報共有による効率的な病気予防などが期待できるそうです。

もちろん国や地域ごとに法律やルールがあり、ほとんどの養殖現場はそれを守っているわけですが、山本さんの言葉を借りれば、「法律以上のこと、養殖業者の方がこれまでに意識しなかったようなことを聞いてくる」のが国際認証。

市場メカニズムを利用して、より良い水産品を世の中に増やしていくことを目指すMSCやASCは、とり過ぎない、海を汚さない、といった「規制」に関連する要求の先にある、移入種の管理※や、輸送時のカーボンフットプリント(二酸化炭素排出量)の把握まで求めています。
※移入、移植についての定義は海藻規準の「G2.1 (b) Introduced species」に記載あり

ですが、そこにあるのは締め付けや義務と言うよりも、自主的に参加した関係者たちの熱い思い。MSCやASCが期待しているのは、未来に対する責任ある漁業・養殖業の広がりなのです。

海藻認証を東京五輪のその先へ

最後に、海藻規準の日本での普及推進役を務める鈴木さんと山本さんに、今後の抱負をたずねました。

「昨年4月の日本での海藻規準ワークショップは満席でした。やっぱり皆さん思いがあって来られているんですよね。まずは、そういう関心のある方々の期待に応えたいです」(鈴木さん)

そのワークショップには私もお邪魔しましたが、会場は企業や研究者、NGOなど海藻関連のステークホルダーでいっぱいに。挙手も多く、皆さん非常に熱心でした。
seaweed07
日本で2017年4月に開催されたワークショップ。ダン・ホガースさん(MSCの規準管理部門の責任者)のリードで、満場の参加者が海藻規準案を磨く作業に丸1日かけて協力しました

「日本の小売り業者さんから非常に頻繁に、MSC・ASCの対象種を増やしてほしいというご意見をいただきます。認証品を待ってくださっている状況なので、海藻規準をきっかけに取り組みが一気に広がっていけばいいなと期待しています」(山本さん)

では締めに、海藻認証の取得を考えている生産者さん、そして海藻をおいしく食べている皆さんへ、お二人からのメッセージです。

「海藻の産地を巡り、種類も食べ方も加工方法も多様性に富んでいることに驚きました。日本人にとって海藻はなじみ深く身近ですが、この規準が、自分たちの海藻文化を見直すきっかけになるといいなと思います。それから藻場は、沿岸域にとって非常に重要な生態系であると同時に、埋め立てや護岸工事、さらに温暖化によって簡単に失われてしまうものでもあります。決して当たり前に未来まで続くものではなく、意識して守っていかないといけません。これを機に海藻の持続可能性についても考えていただけたら嬉しいです」(鈴木さん)

「世の中で持続可能性を求める声が高まる中で、海藻の生産者さんが続けてこられた地元の海や地域の人々を考えた製品づくりを国際認証で証明できるようになりました。海藻規準を、これまでの差別化の努力の一環として是非取り入れていただきたいと思います。また、新しい観点から生産現場の見直しや効率化にもつながるはずです」(山本さん)

MSCやASCは実際に審査を行う認証機関からは独立した組織であるため、海藻認証の取得については、各認証機関が問い合わせ先となります。海藻規準の発効は今年3月の予定ですが、もう全文(下記)が公表されているので、今日からでも認証機関に詳細を相談したり見積もりを集めたりすることができます。

Download a Get Certified Guide for the ASC-MSC Seaweed Standard
※2018年1月31日現在は英語版のみ。近日中に日本語版も完成予定

取得を目指す方は早速、準備をスタートしてみてはいかがでしょうか。いち消費者として、MSC・ASC認証付きの海藻を買える日を心待ちにしています!

【追記】
ASC-MSC海藻規準の日本語版が公開されました。
こちらからご覧いただけます。


               

MSCに関する詳しい内容は、下記までお問い合わせください。
MSC日本事務所サイト:http://www.msc.org/
Facebook: https://www.facebook.com/MSCJapan

東京都中央区日本橋兜町9-15 兜町住信ビル3階
03-5623-2845
japan@msc.org

               

MSC日本事務所のフェイスブックページに「いいね!」をお願いします。
https://www.facebook.com/MSCJapan 
FB