【海洋ジャーナリスト瀬戸内千代の「もっと知りたい!MSC」】

先日、MSCが出展した第19回ジャパン・インターナショナル・シーフードショーの会場で、MSC漁業マネージャー・鈴木允(すずき・まこと)さんが45分間のセミナーを開きました。今日は、その内容をかいつまんでご紹介します。
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ⓒMSC Japan

世界の水産資源に余裕なし

今年のシーフードショーが掲げたキャッチフレーズは、「世界で魚好きがふえてきた! We Love Fish!」でした。まさに今、魚食大国・日本の存在がかすむほど、各地で魚の需要が増え、魚種によっては枯渇しかねない状況になっています。
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「はじめてのMSC認証 ~世界で広がる『海のエコラベル』~」と題して壇上に立った鈴木さんが、部屋いっぱい(約50人)の参加者に示したデータにも、それは表れていました。

下の図で、ぐんと増えているのは養殖水産物。天然水産物の供給量は1980年代からほぼ横ばいで、その理由は「世界の水産資源が、ほぼ満限状態まで利用されているから」。
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ⓒMSC Japan

満限状態とは、「漁船の数を増やしても1隻あたりの水揚げが減るだけで、これ以上獲れない、あるいは、目的の水産資源が崩壊してしまう状態」。

世界の天然水産物について過剰漁獲が占める割合(黄色の線)は、じりじりと右肩上がりの傾向を見せていますが、「この割合が増えていくと最終的には次の世代に魚を残せなくなる」とのこと。

日本でも、水産庁が資源評価をしている52魚種84系群のうち資源量が高位にあるのは17%のみ。あとは低位か中位で、乱獲状態を示す低位が49%と、約半分を占めています。

「魚がいないから大きく育つまで待てない。小さい魚を獲って安く売るから収入は少ない。この悪循環を変えるには、資源をもっと大事にして、大きくなってから獲る良い循環にしていくことが必要です」

それは、カナダの東海岸で過剰漁獲が続いていたタラが1992年に忽然と姿を消した“事件”から得た教訓でもあります。下のグラフ、最後が崖のように落ちています。
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その後、カナダ東海岸のマダラ資源は回復しましたが、まだ元のレベルには届かないそうです。グラフはWikipedia “Collapse of the Atlantic northwest cod fishery” より引用。

「食卓から白身魚がいきなり消えたことで、一般の消費者も、獲り過ぎれば魚がいなくなると実感したわけです。これをキッカケに欧州では、漁業者の自主規制や政策だけでなく消費者も持続可能な漁業を進んで選べる制度づくりが必要という認識が高まりました」

そして、1997年に英国でMSC(海洋管理協議会)が誕生。今では世界で311漁業が認証を取得し、93漁業が審査中。世界漁業の約14%がMSCに関与しているそうです。天然サケに至っては約半分が認証済みまたは審査中の漁業で漁獲されたサケだというから驚きです。

消費者の力で子々孫々までおいしい魚を

鈴木さんは、MSCの目的を「消費者の力で世界の漁業を持続可能なものに転換すること」と説明。選んで買って食べる私たちの消費行動こそキーになるわけです。

もちろん売り手の協力も必要。幸いなことに日本でも複数の企業が、MSC認証製品の扱いに積極的な姿勢を表明しています。

鈴木さんは、イオンコープデリ連合会IKEA三菱商事極洋、高級ホテルグループ(ハイアットヒルトン)の最新の調達方針を紹介しました。例えば、家具ショップ内でレストランも経営しているIKEAは、天然魚はすべてMSC認証のものを提供すると宣言しています。
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ⓒMSC Japan

日本では獲る人(漁業者人口)が減っているにも関わらず1人当たりの水揚げが増えず、漁獲量は年々減る一方(左)。そして、主要魚種の水揚げはマイワシを除き、この10年で軒並み減っています(右)。

鈴木さんは、「魚の減少を日々肌で感じているからこそ」各社が新たな取り組みを始めているのだろう、と言います。

日本のMSCは今が伸び盛り

「皆さん驚かれますが、日本で流通しているMSC認証マーク付き製品は、季節商材など含め350製品あります」

確かに思ったより多め。取材するたびに増えている印象です。シーフードショーのMSCブースにも、初めて見るMSCの「海のエコラベル」付き製品がズラリと並んでいました。
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ⓒMSC Japan

鈴木さんによると、MSC製品の流通に必要なMSC-CoC認証を取得している企業は、2016年8月の84社から2017年8月の128社へと、1年で1.5倍に増加。

売り先が確保されつつあることで漁業認証取得にも拍車がかかり、これまでに30魚種が予備審査を受け、今年度末には50魚種に迫る勢いなのだとか。
※予備審査については、鈴木さんが書いた過去ブログ「MSCの予備審査について知っていますか?」参照

「皆さんがスーパーで買うような魚を獲る漁業の多くは、すでにMSCを目指せる体制になっています」
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ⓒMSC Japan

上が1年前、下が現在。星の数の違いにご注目!
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ⓒMSC Japan

「MSC設立10年目には世界の認証漁業は30しかなかったんです。それが次の10年で300に。MSC日本事務所は今年が設立10年目で、一昨年あたりから急に動きが活発になっています」

10年間の「ぼちぼち」に続く爆発的な増加という前例にならえば、いよいよ日本も「次の10年」に突入したということ。その起爆剤とも言えるのが、先ほど挙げた企業などの積極的な取り組みや、東京五輪が約束した「持続可能な調達」なのだそうです。

鈴木さんは、MSCの「海のエコラベル」付きになったマルハニチロの「だんだん焼き」ニッスイの「おいしいものをちょっとだけ」(いずれも竹輪)も紹介。水産大手2社が自社製品に積極的に認証ロゴを表示し始めたことも、おそらく日本でのMSC普及の兆しでしょう。
※非営利組織であるMSCの活動は寄付金とラベル使用料に支えられており、製品にMSCの「海のエコラベル」を付けて販売するためには、使用料が必要です(過去ブログ参照)。また、MSCの「海のエコラベル」を付けて販売するかどうかは義務ではなく、販売者の判断に任されています

このセミナーを聞いた帰り道、会場で無料配布されていた8月18日付の「日刊みなと新聞」に、「エコラベル認知”低空飛行”」という見出しを発見。ニッスイが各種エコラベルについて2000人を調査したところ、MSCのラベルを見たことがある人は5%で、意味を説明できる人は1.4%という記事でした。

この認知度を見ても現状はまだ過渡期ですが、すでにMSCの「海のエコラベル」付き製品は店頭に並び始めています。持続可能な漁業を願ってMSCに参画した志ある方々を、私たちは今日からでも買い物を通して応援することができます。そして、その機会は、今後ますます増えていくはずです。

デビュー準備中の「海藻」規準について

セミナーの最後に鈴木さんが紹介したのは、秋にも発行予定の海藻の審査規準。
これはASCとの初の合同規準だそうです。
※認証に必要な「審査」については、鈴木さんが書いた過去ブログ「MSC漁業認証 審査規準はどのように進化してきたか?」参照
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ⓒMSC Japan

「海藻は、生態系の中でも重要な役割を果たしています。また、海藻の利用は世界で増えています。マングローブ林を壊していないか、労働問題はないか、といった項目を審査します」

欧米では、食べるというより化粧品などの原料になる場合が多い海藻。のりや昆布など、海藻好きのアジアの中でも日本ほど日常的に食べる国も少ないということで、MSC日本事務所は、海藻規準の策定に大きな役割を担っています。鈴木さんも、海藻規準を広める戦略を立てる責任者として活躍しています。
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 海藻規準策定のキーマンでもある鈴木さん(これはシーフードショーのセミナーのひとこま)ⓒMSC Japan

下記スケジュールのように、今年は仕上げの年。MSC漁業規準のニューフェイス「海藻規準」は10月に発表され、その後、認証機関のトレーニング期間を経て、2018年初め頃から実際に審査が始まる予定。
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また折を見て、こちらのブログでも海藻の話題をお届けしますね!


               

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