【海洋ジャーナリスト瀬戸内千代の「もっと知りたい!MSC」】
MSC認証一本釣りびんちょうまぐろ
店頭に並ぶMSC「海のエコラベル」付きビンチョウマグロ ⓒMSC

こんにちは。海洋ジャーナリストの瀬戸内千代です。
日本初のMSC「海のエコラベル」付きビンチョウマグロのお刺身、もう味わいましたか? 

今年7月末にイオンで発売され、全国1000店舗以上で手に入るようになったMSC認証付きのビンチョウマグロ(ビンナガ)。パッケージには書かれていませんが、今のところ、すべてが宮城県塩竈市に本社を置く「明豊漁業」の魚です。
同社は2016年10月に、カツオとビンナガの一本釣り漁業でMSC認証を取得しました。
※明豊のMSC認証取得までのストーリーはこちら

獲れた魚は船上で急速冷凍して、同グループの水産加工会社「明豊」で処理。カツオは炭火でタタキに、ビンナガは刺身に加工して、小売店(今のところはイオンのみ)に御しています。

認証取得から10カ月が経った今、明豊グループには、どんな変化が起きているのでしょうか? 今回は、2社の代表取締役社長を兼任する松永賢治さんにお話を聞いてきました!
前後編に渡ってお送りします。
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松永社長と第三十五昇喜丸 ※第三十五昇喜丸の初出航についてのブログはこちら

松永さんを焼津港に訪ねた日、ちょうど明豊漁業の「第三十五昇喜丸」が、1カ月の遠洋漁業を終えて港に戻ってきていました。明豊漁業が2017年5月に入手したばかりの一本釣り漁船です。

同社は新たに自社船1隻を建造中で、完成後は、提携他社の1隻(相対船)を含め、計4隻の一本釣り漁船を操業することになります。この船の増え方を見ただけでも、MSC認証取得後のカツオとビンナガの需要の伸びが伺えます。

船が増えた分だけ獲りすぎにならないの?という疑問も出てくるかもしれませんが、認証漁業は、漁船が増えたとしてもMSCの規準を満たす必要があることに変わりはありません。毎年、監査も行われます。
明豊漁業の一本釣り
明豊漁業さん提供の一本釣り写真

1匹1匹、漁師さんの腕力で釣り上げる一本釣りは、第三十五昇喜丸サイズでも水揚げは最大1500トンぐらい。決して効率的ではありませんが、「持続可能性が大事」という松永さんの信念はブレません。

ちなみに、明豊グループの名刺の肩には見慣れた3文字が……実はこれ、1983年創業の親会社(南食品:Minami Shokuhin Co.,Itd.)の頭文字なんだとか。「こっちのほうが先だけどね!(笑)」と松永さん。いまやMSCの先駆者として名を馳せている明豊のロゴがMSC。この偶然の一致にも、何やら深いご縁を感じます。
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苦もなく審査を通過

MSC認証の審査内容は、かなり細かく、なかなか手ごわい印象です。実際のところ、松永さんは、どのように感じたのでしょうか。

「それが、うちの場合は、もともと条件に合致していたから、それほど大変じゃなかったんだよね。我々が獲っていたビンナガの資源量に問題がなかったし、たまたま(国内のビンナガのMSC認証)取得の1例目になれたし」

松永さんは、もともと水産加工業者だったので、獲った魚の出口になる小売業界にも精通していました。さらに同社は売上30億円ほどの経営規模を持ち、松永さんによると、MSC認証製品だけでも今年は5億円以上を見込めるとのこと。つまり、費用対効果が望めるわけです。なるほど、恵まれた立ち位置です。
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唯一ちょっと厳しいと感じたと言うのは、認証継続の条件として、水産庁や中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)など、カツオ・マグロ資源の管理機関への働きかけまで求められるところ。松永社長は、「一企業がアピールしてもねぇ、なかなか難しい」と言いつつ、「でもやっていきたい」と前向きです。

実際、一企業の努力以上に、資源管理にはルールづくりが必要なケースも多そう。松永さんは、それを踏まえた上で、他の漁法も含め、「恥ずかしくないサステナブルな漁業にしていく」と覚悟を語りました。

ズバリ「取って良かったよ」

ある程度の勝算があったとはいえ、コストをかけてMSC認証を取得した後には、いろいろと思うところもあるかもしれません。でも松永さんの結論は、ズバリ一言。

「いや、ほんと、取って良かったですよ。今の状況(新造船の追加や新たな雇用など)は、MSCが無ければあり得なかっただろうから」

パチパチパチ!!良かったです!! 明豊さんのビジネスはB to Bなので、直接お客さんの声が届くこともないし、「MSCを取りました!」と自らPRすることもありません。それでも経営面で、十分な手応えを感じているとのこと。
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MSC認証は5年更新。「当初は、まず5年はやろうと。でも、この通り順調だから、絶対次も更新するよ」。早くも次の5年に意欲的な明豊グループ。益々の発展が楽しみです。

待って釣るのが一本釣り

第三十五昇喜丸では、生き餌のカタクチイワシをまきながら、シャワーで水面をたたいて小魚が群れていると錯覚させてカツオやビンナガを呼びます。そして、疑似餌を付けた針を垂らして……あとは、まさに釣り。自ら食いついてくるイキのいい魚を待ち、人力で1匹ずつ釣り上げます。

「世界的に見ても稀に見るエコな漁業だからね。だって、受け身だもの。お腹をすかしていない魚は、見えていても獲れないんだからね。こんな漁業、他にないでしょう?(笑)」
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漁船のへりに足を差し込んで体を支え、魚がかかるたびに一人で釣り上げては背中をそらせて甲板に放る一本釣り。豪快で体力の要る漁法です。
ビンナガはマグロ類の中では小ぶりですが、それでも最大1メートル約25キログラムにもなり、釣り上げるのは楽ではありません。

いったん燃料を積み込んで出航したら、途中どこにも寄港せず、1-2カ月は海の上。機器類の管理も、船員の食事の調理も漁師が役割分担して、魚と出合えば甲板に並び、体力勝負の釣りを繰り返します。

「資源管理ってきれいごとに聞こえるかもしれないけど、この一本釣りは、もちろん、本当にきれいだよ。それを知って選んでくれる小売りや消費者が増えることは非常に大切。相場が昨年の1.2倍ぐらいになっているのも、選んでくれた方のおかげでしょうね」

経営者が胸を張って「本当にきれい」と言うのを聞けるのは、嬉しいことです。それに、私たち消費者の影響力も感じることができるお話でした。

次回の後編は、第三十五昇喜丸の漁労長と機関長のお二人にお話を伺います。お楽しみに!

               

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