こんにちは。MSC日本事務所・漁業担当の鈴木です。

5月に発行され、先月のブログでも紹介したMSCの『2017年環境インパクト報告書』(要旨を抜粋したPDFファイルはこちら
この報告書は、MSC20周年記念号として、MSCのこれまでの歩みを振り返り、海洋環境改善のために達成してきたことについて紹介しています。
GIR2017-1
そのなかでも、ページ数を割いているのが「MSC漁業認証の審査規準の進化」
そこで今回は、MSCの審査規準がどのように作られたか?というお話をします。
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MSCには「持続可能な漁業のための3つの原則」があることは、以前にもブログで紹介しました。
  1. 対象とする水産資源が持続可能なレベルにあること
  2. 漁業が生態系に与える影響が最小限に抑えられていること
  3. 効果的な管理システムがあること
これらの3つの原則を満たすことで、「持続可能な漁業」として認証取得できます。
MSC3原則
これら3つの原則の下に、28の「業績評価指標」という審査の項目があり、審査の際には、それぞれ100点満点で採点します。
すべての指標が60点以上、各原則の平均が80点以上。これが認証取得の条件です。

現在ではこのようなシステマチックな審査体系があり、誰が審査しても同じような結果が出ることが期待されています。
しかし、このような審査方法は設立当時からあったわけではありませんでした。
1997年に設立してから、多くの議論と、審査の経験と、幾度もの規準の見直しを経て、ようやく出来上がったものなのです。

それでは、環境報告書の記事にしたがって、規準の進化をたどってみましょう。
採点基準

現在使用されている「標準審査ツリー」は、2014年にできたもの。

1997年~1999年

MSCが設立された1997年、MSCには認証制度とエコラベル制度を運営するという大きな構想はありましたが、まだ審査規準も審査の方法も決まっていませんでした。

1997年から1999年にかけて、持続可能な漁業の審査規準を作るため、世界各国のステークホルダーとの協議が行われました。
この協議を通じて、MSCの「持続可能な漁業のための原則と基準」が作成されました。
これは、現在の3つの原則と、27の基準から成り立つもので、MSCが考える持続可能な漁業の理念が書かれています。
(MSCの「原則と基準」はこちらからダウンロードできます)
この「原則と基準」には、1982年に採択された「国連海洋法条約」や、1995年に採択された「責任ある漁業のための行動規範」など、当時のもっとも厳格な科学的根拠、漁業管理方策、および政策協定が反映されています。
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2010年5月に発行された「原則と基準」の第1.1版

1998年~2008年

「持続可能な漁業のための原則と基準」は、漁業の業績を効果的に審査するための具体性に欠けていました。
そのため、2008年までの審査では、まず各認証機関が独自の指標の開発を行い、その指標にしたがって審査を行っていました。
指標の作成と、それに基づく審査、という2重の手間がかかっていたのです。
2008年にアジアで初めて認証を取得した京都のアカガレイ漁業は、そのようにして審査が行われました。
現在では28の決められた指標がありますが、京都のアカガレイ漁業が最初に審査を行った時には、指標の数は、なんと84もあったんですよ!
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2008年に認証を取得した京都のアカガレイ漁業の審査ツリー。当時は、審査ごとにこのようなツリーを新たに作成していました。前出の現在の「標準審査ツリー」と比べると、時とともに洗練されてきたことがお分かりになると思います!

しかし、このような柔軟性のあるアプローチによって、規準の解釈に差が生まれてくるようになってしまいました。
そこでMSCは、2006年から2008年にかけ、多様なステークホルダーとの協議を重ねながら、より具体的な評価指標の開発を目指しました。
そして2008年に、「漁業審査方法 第1.0版」が発行されました。これが、現在のMSC漁業認証の規準の土台になっています。
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2008年「漁業審査方法 第1.0版」で使用されている標準審査ツリー。現在のものとほとんど同じですが、指標の数は現在のものよりも少し多いです。

資源管理手法についての審査内容の強化

2008年以前のMSCの審査では、原則1の「資源状態」においては、「対象となる水産資源が高い生産性を維持し、漁業による過剰漁獲が避けられていること」が求められていました。
しかしながら、水産資源を将来にわたって利用するために必要な「管理基準点」や「漁獲調整規則」についての明確な審査事項に欠けていました。こうした管理手法がなければ、資源が減ってきたときに、漁獲を減らすことができず、資源が崩壊してしまうこともあるのです。
そこで、改訂漁業基準ではこれを改善し、最大持続生産量(MSY)を実現する資源量(BMSY)を目標管理基準点とし、その基準点のあたりを変動する資源状態を維持しなければならないことを原則1に明確に盛り込みました。
(MSYを管理に使っていない場合は、代替指標を使うことが認められています。また漁業以外の自然要因による資源の変動は、審査のなかで考慮されます)

データ不足の漁業と「リスク評価に基づく審査枠組み(RBF)」

MSC漁業認証規準は、あらゆる漁業がMSCのプログラムに入れるように作られています。
しかし、小規模な伝統漁業などにとっては、定量的データがないことが審査のうえで高いハードルとなってしまう場合があります。
この問題を解決するため、MSCはデータ不足の漁業の審査に適用可能な「リスク評価に基づく審査枠組み(RBF)」を開発しました。
RBFは、オーストラリア連邦科学産業研究機構が、漁業の影響に対する生態リスク評価を行うために開発した方法論を土台にしており、2009年7月にMSC漁業規準に導入されました。
これは、規準の科学的な信頼性を損なうことなく、世界中の漁業に対し、MSCプログラムへのアクセス性を高める取り組みの一端です。
いままでに世界の67漁業が、RBFを用いて、対象種または混獲種の資源状態について審査を行っており、そのうち24%は南半球の発展途上国の漁業が占めています。
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発展途上国の漁業や認証機関向けにRBFについての研修も行われています。これは2014年9月の研修資料。表紙にはベトナムのクラム漁業の写真が使われています。

2008年から2013年まで

2008年から2013年にかけて、MSCでは数回の規準改訂を行いました。
「漁業審査方法 第1.0版」(2008年)は、翌年の「第2.0版」を経て、2010年に「第2.1版」に改訂されました。
その後、「規準文書検討プロジェクト」と呼ばれる大規模な見直しが行われました。

このプロジェクトの結果、漁業の審査規準、漁業認証のプロセス、CoC認証(流通・加工の認証)関連など、審査の規準や手順に係る文書はすべて「MSC認証要求事項 第1.0版」(2011年)として1冊にまとめられることになりました。

「要求事項」という用語は、MSCの審査規準を表す言葉としては2011年の「第1.0版」で初めて使われるようになりましたが、これは「認証を取得するにあたり、MSCが認証機関や漁業に求めるもの」という意味です。

さて、「MSC認証要求事項 第1.0版」は、その後ほぼ1年に1回見直しが行われ、2013年に「MSC認証要求事項 第1.3版」が発行されたあと、現在の「漁業認証要求事項 第2.0版」に引き継がれています。

さらなる改善 2014年~

2013年から2014年にかけて、「漁業認証要求事項」の大幅な見直しが行われました。
規準のさまざまな側面が協議にかけられ、多くのコメントを受けました。
そして、これらの議論をもとにして、2014年10月に「漁業認証要求事項 第2.0版」が公表されたのです。
最新の規準改訂には最先端の水産科学が反映され、とくに漁業が環境に与える影響(原則2)の要求事項が一層強化されました。

主な改訂項目は以下になります。
  • 「混獲の管理および投棄削減に関する国際ガイドライン」(2011)に基づき、不要な漁獲を削減するための措置についての項目が追加された
  • 「公海の深海漁業管理のための国際ガイドライン」(2009)に基づき、生息域や脆弱な海洋生態系(VMES)に対するより強力な保護が求められるようになった

次の展開

MSCはこのように、1999年から2014年にかけて、審査規準がより良いものになるよう改善を続けてきました。
一方で、MSC諮問委員会は、規準を頻繁に改定することによって不確実性が生じ、審査プロセスがより複雑になってしまうことも認識するようになりました。
そこで、2014年の第2.0版の発行から5年間は規準の見直しは行わず、次の規準見直しは2019年に行うことで合意しました。
Journey_Arrow
長い時間とたくさんの議論を経て作られてきた、MSC漁業認証の規準。
水産科学の進化や社会情勢の変化に応じて、審査内容も少しずつ変わってきました。

膨大な労力をかけて、常にプログラムの見直しと改善を行っているからこそ、MSCの認証規準は世界中の人々から信頼されているのだと思います。


               

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