こんにちは。漁業担当の鈴木です。

今回は、『持続可能性に向かう中国の漁業とMSC』と題して、3回にわたって中国の水産業について紹介します。

「中国の水産業と持続可能性」というと、「え?」と思う方も多いはずです。
日本では、「中国漁船による違法操業のせいで日本近海から魚が減っている」という趣旨の報道が多いので、中国の漁業が持続可能性な方向に向かっているなど思ってもみなかったのではないでしょうか。
中国が漁業改革を行おうとしているという話は、国内でほとんど紹介されていませんね…。

そこで、今回は北京と青島にも事務所をもつMSCのネットワークを利用して、中国の様子をお伝えしたいと思います。

サステナブル・シーフードの分野では、じつは中国もがんばっているんですよ!
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中国遼寧省の沿岸に並ぶ木造漁船 ©MSC/鈴木允

中央政府主導の漁業改革

今年1月、日本の農林水産省に該当する中国「農業部」は、沿岸の各省、自治区、直轄市に向けて、次のような通知を出しました。

題して、「国内漁船の取締り強化と水産資源総量管理の実施に関する通知」(中国語の原文はこちら)。

以下、冒頭の趣旨説明です。

近年、沿海各地は共産党中央および国務院の手配に基づき、夏季休漁、資源増殖、漁船漁具管理、減船、産業転換などの措置を通じて、漁業資源保護に大いに力を注ぎ、海洋漁業の発展と資源保護の両立を促進してきた。しかしながら、漁業資源の粗放的な利用方法が原因で、有効な改善はいまだ得られておらず、漁獲能力は依然として漁業資源が受容できる能力をはるかに超えている。国際的な漁業資源管理の方法を参考にして、漁船の漁獲能力と漁獲量を、合理的な範囲内に抑制し、科学的な水産資源の利用と管理を行い、管理レベルを精密にし、水産資源のルールに基づいた利用を実現することは、国家生態文明建設に必要な要求事項であり、また海洋漁業の持続的な発展の基盤となる措置である。

中国沿岸では、過剰な漁獲圧により、水産資源が減少しています。
「通知」にも書かれているように、いろいろな資源保護政策を行ってきたけれども十分な成果は上がっておらず、資源が回復するよりも強い漁獲圧がかかっていると分析しています。

また、日本でも報道されているように、大気汚染などの環境問題が深刻な問題になっており、国をあげて「環境問題を解決する」「環境と調和した社会を建設する」ということが大きなテーマになっています。

このような背景があるなかで、沿岸の過剰漁獲という問題を認めたうえで、それを解決するための漁業改革を打ち出しているのです。
ワタリガニ漁業
中国のワタリガニ漁業 ©MSC/Yue Hao

改革の2本の柱となるのは、「ダブル規制」と呼ばれる既存の漁業政策の強化と、「水産資源総量管理制度」の導入です。

ダブル規制とは、中国の漁業政策の核になる規制で、中国全土での漁船の総隻数と総エンジン出力の上限を設定するものです。今回の通知では、2020年までに漁船を2万隻、総エンジン出力数を150万キロワット削減する目標を定めています。なかでも大きな割合を占める「大中型漁船」は2015年の65,398隻から57,095隻に減らすので、だいたい9隻に1隻を処分することになります。

「漁船数と総エンジン出力数を減らすことにより、漁獲圧力と漁獲可能な資源の量のバランスを実現する」と、通知は説明しています。

一方の「水産資源総量管理制度」は、すべての魚種の総漁獲量に上限を設けるものです。
現在、遠洋漁業をのぞいた中国沿岸での漁業生産は1309万トン(2015年)。2020年までに、1000万トンまで減らす目標です。この目標を達成するために、沿岸各省は毎年5%を超える漁獲削減を行わなければなりません。

これらの野心的な目標を達成するために、中国農業部は沿岸各省に次のように呼びかけています。

①海面漁業漁船の「ダブル規制」制度をより整ったものにするために、以下を実行すること。

(1)漁船建造過程での管理の強化。代船・再建造以外での新造船の禁止。とくに、二艘引き底引き船、帆張船、三角虎網の建造禁止。検査、登記の徹底
(2)漁船管理の仕組みの革新。漁船の分類を強化し、サイズごとに区別して管理する。
(3)漁船・漁具の管理の規範化。全国統一の漁船データベース作成。GPSや衛星を用いた漁船の動きのモニタリング、自動識別、漁船の統制の強化。使用できる漁具や漁網、照明などについて、全国の基準を統一し、管理する。
(4)漁業者を他の産業に転業させる


②海洋水産資源総量管理制度を実施するために、以下を実行すること。

(1)資源評価制度の強化。全国で水産資源評価と産卵場調査を行う。
(2)漁獲可能量を科学的に決定する。
(3)漁獲生産統計システムを改善し、国際的に通用するものにする。
(4)魚種ごとの漁獲上限制度(日本のTAC制度のような制度)を模索する。いくつかの地域で試験的に制度を導入する。
(5)水産資源保護制度の改善。産卵場など、重要な海域を保護するために休漁期間を延長したり、保護区を設けたりする。
(6)孵化放流事業の強化と環境保護。


新しい技術を積極的に導入しようという姿勢も感じられ、漁船の自動識別、衛星通信、漁船・漁港でのモニタリング、などはかなり進んでいくのではないか…という気さえします。
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福建省東山の漁業の様子 ©MSC

中国の研究者にインタビュー

ところで、「書いてあることは立派だけど、本当に実現できるの?」と感じられる方もいるでしょう。

実際、1980年代から導入されている「ダブル規制」制度ですが、中央と地方との意識の差があり、なかなか守られてこなかったという研究もあります。(李ほか,2009)

そこで、中国の漁業政策を研究している中国人の研究者に国際通話で聞いてみました。
(ご本人が匿名を希望されているので、Aさんとさせてください)

中国の漁業制度などについて話を聞いたあと、単刀直入に次のような質問をしてみました。

鈴木「新しい制度では漁獲が削減されることになりますが、漁業者は喜んで受け入れるでしょうか?」

魚が減っているとはいえ、漁獲量が制限されれば、みんな反対するのではないかと思ったのです。

予想に反して、Aさんの答えは以下のようなものでした。

専門家Aさん「中国では乱獲が進み、資源が減少しています。新しい規制が導入されて魚を増やすことにはみんな賛成しています。現に、夏季休漁制度も期間が延びていますが、みんな受け入れていますよ」

と、前向きな意見をいただきました。

夏季休漁制度は、多くの魚が産卵期を迎える5月~8月に全国一斉に休漁する制度のこと。
夏季休漁に加えて、「ダブル規制」の強化や、水産資源総量規制制度が実現すれば、中国沿岸の水産資源はきっと回復してくるはずです。

東シナ海はサワラやアジなど日本にも回遊してくる魚の産卵場になっています。
中国沿岸の漁業が改善されることは、日本の漁業にとってもプラスになるはずと考えます。

そして、こうした一連の中国の漁業改革の流れの中で、MSC中国事務所も一役買っているようです。
そこで、次回はMSC北京事務所の活動について紹介します。

【参考文献】
李欣ほか「中国海面漁船漁業における「ダブル規制」管理政策の展開と課題」2009
中国農業部「農業部関与進一歩加強国内漁船管控実施海洋漁業資源総量管理的通知」

               

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