【海洋ジャーナリスト瀬戸内千代の「もっと知りたい!MSC」】

こんにちは。海洋ジャーナリストの瀬戸内千代です。
MSC日本事務所代表・石井さんに、MSCという組織についてお伺いした前回
今回は、石井さんと漁業担当マネージャーの鈴木允(まこと)さんに、MSCの認証制度についてお話を伺いました。
この5月に10周年を迎えるMSC日本事務所。10周年記念のスペシャルバージョンとして、3回にわたってがっつりお届けします!
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MSC認証は、なぜ必要?

そもそもの話、サステナブル(持続可能)な漁業で獲られた魚だけが市場に出回る仕組みがあれば、エコラベルによる区別は不要です。
そのほうが単純でいいのにな~と、いち消費者としては思いますが、それは理想論(残念ながら)。

日本では、絶滅危惧種のクロマグロ(本鮪)やウナギ類を、いつでも好きな時に食べられる、おかしな状況が続いています。

「スーパーに行くとどんな魚も同じように売られていて、『今これ食べるべきじゃないでしょ?』って魚も結構あります。それを消費者が分かるようにする仕組みが必要なんです」

と力説する鈴木さん、実は「MSC漁業担当マネージャー鈴木さんの数奇な魚人生。(MSCアンバサダーブログ)にある通り、異色の経歴を持つMSC日本事務所スタッフです。
鈴木さん
三重県の漁村に1年ほど密着して調査したり、築地の荷受けとして8年間働いたり、大学院で水産資源の研究をするなど、多角的に漁業を見つめてきた方です。
その鈴木さんによると、あと2、3年は海で泳がせておいたほうが良いような魚も平気で売られているのが現状。

「魚がとれない」「どんどん小さくなっている」というのは、多くの漁師さんから聞く話ですが、築地で働いていた鈴木さんの実感でもあるのです。
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築地市場の風景(鈴木さんご提供)

「気候変動の影響もあるでしょうし、魚がなぜ減ったかという統一見解はまだないんです。でも、最大の要因は、僕はやっぱり、獲り過ぎだと思っています。このままでは本当に食べられる魚がいなくなってしまうかもしれません」(鈴木さん)

普段の買い物で水産資源の枯渇に加担してしまうのは、消費者としても不本意。
そこで、「この魚なら消費して大丈夫」という指標を提供してくれているのが、MSCなどの認証制度というわけです。

東京出身の鈴木さんが、大学時代に調査で滞在した小さな漁村で、「この魚が、どうやって東京のスーパーに行っているんだろう」と知りたくなって築地に就職したように、目の前の食材の来し方に疑問を持つ姿勢って、大切ですよね。
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ⓒMSC

周囲に広がる良い影響

日本のMSC認証漁業は現在3つ。
  • 京都府機船底曳網漁業連合会のアカガレイ漁(2008年~)
  • 北海道漁業協同組合連合会のホタテガイ漁(2013年~)
  • 2016年の秋に加わった明豊漁業株式会社(宮城県塩釜市)のカツオ・ビンナガ一本釣り
この他にも、審査の準備をしている漁業がいくつもあるようです。
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明豊漁業・塩釜港での水揚げ風景 ⓒMSC

とはいえ、欧米に比べるとまだまだ国内の認証取得数は多いとは言えません。国内の漁業がMSC認証を受けるにあたって、どんなことが課題となっているのでしょうか?

「MSC漁業認証では、3つの原則を用いて審査をします。原則1は、対象となる水産資源が豊富で、資源管理されていること。原則2は、混獲や海底環境など、生態系におよぼす影響が最小限に保たれていること。原則3は、法律や規則などに従って漁業が行われていることです。」(鈴木さん)
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MSC漁業認証、3つの原則 ⓒMSC

このうち、原則1は資源全体を見るそうです。
京都のアカガレイ漁業であれば、日本海のアカガレイ全体の資源が豊富で管理されていること、株式会社明豊のカツオ漁業であれば、中西部太平洋のカツオ資源全体が豊富であることを示す必要がありました。

「このため、資源全体の管理がうまくいっていなければ、個々の漁業者さんがいくら頑張っても認証取得は難しいことになります。」(鈴木さん)

例えば、かつて認証されていた京都のズワイガニ漁は、広域で十分な資源管理を行っていることが示せず、5年更新の再審査の際に認証を外れました。京都のズワイガニ漁が課された宿題は、漁業者だけでは解決しがたい内容だったわけです。
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ⓒMSC

「京都でのズワイガニ保護の取組みは、他県にも広がっています。脱皮直後の『水ガニ』漁獲を控える動きも広がってきました。残念ながらMSC認証からは外れてしまいましたが、これからも資源保護の取り組みが広がっていくいいなと思います」(鈴木さん)

MSCが局所でなく全体の持続可能性を求めるのは素晴らしいことですが、一部の漁業者の認証取得のために、そこまで周囲が動いてくれるのでしょうか?

「モルディブで前例があります。インド洋のカツオ資源は、地域漁業管理機関という国境をまたいだ条約レベルの機関で管理されていますが、減った場合の漁獲調整規則が不在でした。そのせいで、モルディブの伝統的なカツオ一本釣りのMSC認証に条件(期限付きの宿題)が付いた。モルディブは認証を継続すべく、関係各国に働きかけました。そして、カツオが減ったらインド洋全体で巻き網漁も制限する、というルールを作ることに成功したんですよ」(鈴木さん)
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MSC認証を取得したモルディブのカツオ一本釣り漁業者 ⓒNice and Serious/MSC

おぉっ、目からウロコ。不可能じゃないんですね。
発案したのは、全体の漁獲量から見たら非常に小さな漁業者だったというから、余計に素敵です。
広域まで目を光らせるMSC取得漁業が周囲に増えると、きっとその海域は、どんどん健全になっていくでしょう。

そして、資源量の心配がない魚を店頭で選べれば、私たちは罪悪感や不安感を抱かずに買い物ができて、一層おいしく魚をいただけるようになりますね。
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イオン店頭で販売されるMSC「海のエコラベル」つき製品 ⓒMSC

次回も引き続き、MSCの認証制度について石井さん・鈴木さんへ伺っていきます。
お楽しみに!

               

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